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作詞家になろう

 

「皆さん、歌詞を作ってくださいな」

 自動車教習所の夕食後の自由時間、ユコはメンバーにルーズリーフを一枚ずつ差し出しながら言ってきた。

 いよいよ既存の曲のコピーだけでなく、オリジナルソングの作成に乗り出したとでも言うのだろうか。

「歌詞って、愛とか恋とか? いやちょっとそれは……」

「別にラブソングじゃなくてもいいですわ」

 ラムリーザはちょっとしり込みしたが、ユコはすぐに別の案を出してきて促してくる。

 ユコは作曲するのは慣れているが、他の人は作詞するのは初めてだったりする。

 というわけで、先に作詞してもらい、それに曲をかぶせるという形で、歌作りを進めることにしたのだ。

 

 しばらくの間、みんな黙々とペンを走らせていた。

 自分達で作った歌詞に、ユコが曲を作ってくれる。それはそれで面白いではないか。

「できた」

 一番に仕上がったのはリリスだ。

 リリスのことだから、誘惑するような甘美に満ちた歌詞に仕上がっているに違いない。

「拝見しましょう」

 ユコは、リリスから歌詞の書いた紙を受け取って読み始めた。

 

 

 

 リリスの作品

 

これは私の物語

最後かもしれないから 全部話しておくわ

 

愛する人は 譲ってくれと頼むより

殺してでも奪い取る

こんなのでいいの? いいですとも!

 

青い空 広い海

こんなにいい気分に浸っている

私を邪魔するのは誰? 誰? 誰なの?

 

結局私にはわからない

五十年の月日は あまりにも長すぎた

 

だから笑えよ

みんなが笑って暮らせる世を作るんだろ

私はもう笑っているわ

かゆい うま なんて言わせない

夕べはお楽しみだったんだから

 

でもね でもね

こんな歌にまじになっちゃって

どうするの?

 

 

 

「どうかしら? タイトルは私の物語、ね」

「リリス……、あなたゲームに出てきた台詞を、もじって羅列しているだけじゃないですの……」

「ばれた?」

「そ、そうなのか。リリスにしては文章になっていると思ってたら、そういうことか……」

「いや、文章になってませんですわ」

「とりあえず私は書いたから、あとはこれに合わせてメロディ作るだけよ」

「嫌ですわ、こんな歌!」

 とりあえず、リリスはゲームに出てきた台詞をつなげただけのようだ。

 歌詞以前に、じっくり読むと物語が繋がっているようで繋がっていないし、一部意味不明。

 ユコもこんな歌詞に曲をかぶせるのは嫌だと言っている。

 これはボツだ、次行こう。

「次はあたしの歌!」

 ソニアはユコに歌詞を書いた紙を手渡す。

 その時、ラムリーザは何とも言えない不安を感じるのであった。

 

 

 

 ソニアの作品

 

ラはラムリーザのラ とっても素敵なあたしの大切な人

ムは夢のム ラムリーザと一緒なら素敵な夢を見ることができるの

リはリザレクションのリ ラムリーザとの愛は何度でも復活するの

イは苺のイ ラムリーザとの恋は苺ミルク味なの

ザはザ・ワールドのザ 世界はあたしとラムリーザだけのもの

 

すきすきすきすきすき アイラブユー

ラムラムラムラムラム アイラムユー

ちっぱいなんて ちっぱいなんて 吹き飛ばせー

 

ラはラムリーザのラ とっても素敵なあたしの大切な人

ムは無限のム ラムリーザとあたしの愛は 限りなんてありえないの

リはリインカーネーションのリ 現世も来世もラムリーザとずっと一緒なの

イはイマジネーションのイ ラムリーザのこと想像しちゃうだけであたしイッちゃうの

ザはザ・ワールドのザ 世界はあたしとラムリーザだけのもの

 

 

 

「タイトルは、ラムのラブソングよ!」

「待て、それは二重の意味でやばいからやめろ」

「何よ、何が不満なのよ」

「一つ、そんな歌を歌ったら僕が何を言われるか分からないからやめろ。一つ、えーと……とにかくそのタイトルはいかん」

「というよりその歌詞、電波っぽいわ……、アイラムユーって何?」

「気持ち悪いですわ、勝手にソロで歌ってください」

「いや待て、歌うな……」

 ラムリーザはあまりの歌詞のアレさに頭を抱えた。

 これも不評ということで、次に行くことにした。

 リゲルとロザリーンは、まだ書き終わっていないようなので、次はラムリーザの歌詞を見てもらうことにした。

 

 

 

 ラムリーザの作品

 

地平線の彼方まで広がる草原で

寝転がって空を見上げると

悩みも何もかも消え去っていくんだ

 

天国では全てが上手くいく

だから今は何も考えなくていい

そのうちなんとかなると思っていればいいのさ

 

天国には悩みなど無い

だから今は小さなことは気にするな

いずれ全てが好転するに決まっているのさ

 

天国では何もかもいい気持ち

だから今は苦しくても耐え抜こう

時の流れに身を任せているだけでいいのさ

 

地平線の彼方まで広がる草原で

寝転がって空を見上げると

些細なことなどどうでもよくなっていくんだ

 

 

 

「タイトルは、天国では全てが上手くいく、な」

「…………」

「なんか怖いですわ……なんだか分からないけど、ゾクッと来ますの」

 歌詞を読んだユコは、わずかに身震いしている。

「希望があるようで、実は死をイメージしてない?」

「知らんがな、作詞しろという話になったから、思いつくまま詩を書いただけじゃないか」

「ラムは死ぬことに美学を感じているの?」

 ソニアは不安そうにラムリーザの顔を見ている。

「人はいずれ死ぬものさ」

「やだよ、ラムが死んだらあたしも死ぬ!」

「どうしてそういう話になる……」

 ひとまずラムリーザの作品は置いておくことになった。

 歌として作成するには、歌詞がなんとなく不気味すぎる。

「でも、リゲルさんとロザリーンには期待できますわ」

 残るリゲルとロザリーン。メンバーの中で知識のある方だ。

 ユコは、早速ロザリーンから歌詞を受け取って、目を通し始めた。

 

 

 

 ロザリーンの作品

 

今日は鶏のささみを使った絶品の紹介

みなさんいいですか?

 

まずは鶏ささみの筋を取り除いて

強く押し付けて薄く延ばして

塩、胡椒、すりおろしたにんにくをふりかけるの

 

そして生ハムの切り落としを乗せて

その上にとろけるチーズをはみ出ない程度に乗せるの

再びハムと鶏ささみを乗せてサンドイッチにしましょうね

小麦粉をしっかりまぶして準備完了

 

多目のオリーブオイルでしっかり両面焼きましょう

卵とパン粉で焼いてもいいですよ

 

生クリームと醤油で作ったソースをかけて

コンドン・ブルーの出来上がり

 

 

 

「タイトルは、コンドン・ブルーでお願いします」

「いやいやいや、これ何ですの?」

「タイトルはなんとなくかっこいいけど、歌詞の内容が……料理かしら?」

「ええ、コンドン・ブルーの作り方を歌詞にしてみました」

「いやいやいや、お料理行進曲じゃないんですから……」

「だめですか?」

「うーん……」

 真顔で問いかけるロザリーンに、ユコは悩みの表情を浮かべる。

 リリスのようにゲーム台詞の羅列でもなく、ソニアのように電波でもなく、ラムリーザのようにゾッとするわけでもないけど、何か違う……。

「おいしそうじゃないか、今度食べさせてくれないかな?」

「あっ、ラムもそう思う? あたしも食べたいなー」

「機会があったら作って差し上げますよ」

 ラムリーザとソニアの二人は、歌詞作成の話はそっちのけで、料理の方に興味が行ってしまったようだ。

「もう……料理じゃなくて、ちゃんと歌詞作ってくださいですの!」

 最後に残るはリゲルただ一人。彼に期待しようではないか。

 ユコは、そう祈る気持ちで、リゲルの書いた歌詞を受け取った。

 

 

 

 リゲルの作品

 

最初にゆらいだ無があった

時間、空間、物質、エネルギーの無い状態

ゆらいだ無から

真空エネルギーが高い状態にあるミクロ宇宙が

トンネル効果によって生まれた

 

このミクロ宇宙は、急激な膨張「インフレーション」を起こす

一ミリのビーズが、一秒の一兆分の一の一兆分の一の百億分の一の間に

千億光年の大きさに広がる、これがインフレーション

こうしてミクロ宇宙はマクロ宇宙へと進化した

 

その後真空が相転移すると、エネルギーは一挙に開放され

宇宙は光のエネルギーに満ちた火の玉、ビッグバンになった

 

物質はこのビッグバンの中で作られた

大量のクォークとレプトンという粒子、そしてその反粒子が作られた

粒子と反粒子は対消滅を始めたが

粒子がわずかに多かったために現在の物質世界が出来上がった

 

 

 

「そら、タイトルは、物質世界の誕生、だ」

「……わっかんないですわ!」

 ユコは、リゲルから受け取った歌詞を見て頭を抱えた。

 リリスも何も言葉を発さない。つまり理解できない、感想を言えないということだ。

 ラムリーザとソニアは、ロザリーンと一緒に料理の話で盛り上がっている。

「俺はやることはやった、後はお前の仕事だ」

 リゲルはそう言い放つと、席を立って自室へと一人戻っていったのである。

「曲をかぶせろと言われても……歌詞の意味がわかんない……リリス分かる?」

「宇宙ヤバイ……」

 ユコとリリスは、リゲルの作った歌詞を前に、沈黙してしまった。

 

 

 結論、「ラムリーズ」には作詞家が居ない。

 
 
 
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