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雨の日のラムズハーレム

 

 昼休み、ラムリーザとソニアの二人は、今日も屋上に行こうとしていた。屋上は風が心地よくて涼しいので、夏の間は良いスポットとなるだろう。

 本当はもう一つの秘密スポット、学校の裏山という場所があったが、二人にとって今は屋上がお気に入りだった。

 普段は屋上への扉の鍵が閉まっていて誰も入れないのだが、天文部のリゲルが鍵を持っていたりするので、頼めばいつでも行くことができた。そのような所もあり、他に人の来ない特別な場所といった感じもあり、さらに気に入る要素だったりする。

 今日もリゲルに鍵を借りて屋上に行こうとしたところ、リリスとユコの二人もついてくるのだ。

「何よ、お邪魔虫!」

 ソニアにとっては、ラムリーザと二人きりになれるチャンスを潰そうとする相手なので、非難の声をあげる。だが、リリスとユコも平然としたものだ。もう、ソニアの怒声には慣れっこだ。

「あなたは家でいくらでもいちゃいちゃできるでしょう? だから学校の間ぐらいは私達が居てもいいでしょ? ねぇ、ラムリーザ」

「それもそうだな、ソニア、我侭はいかんぞ」

「むー……」

 そういうわけで、四人で屋上へと向かっていった。

 早く涼みたいが、急ぐと暑くなる。また、廊下や階段を走れば注意されるかもしれないので、四人は隊列を組んで、堂々と、粛然と進むのであった。

「えーと、隊列。あたしは騎士で、ラムはレンジャーで、リリスは使えない魔女で、ユコは――」

「荒れるような会話はやめなさい」

「私は勇者ですの」

「勇者は無し、ユコは山賊」

「何ですの?! 山賊って思いっきり敵じゃありませんの?!」

 荒れた……。ラムリーザはため息を吐いて、一人隊列から外れるのだった。

 

 屋上に出る扉を開くと、そこは雨の降る世界と化していた。入り口傍に並んで立ちつくすリリスとソニア。外はしとしとと雨が降り続いている。

「あーあ、雨が降っているなぁ」

「あなたがてるてる坊主を作らないからでしょう?」

「べつにあたし雨降っていてもいいもん」

「そうねぇ、雨を浴びたら今夜シャワー浴びる必要なくなるからねぇ」

「何それ?」

「あなた、濡れ女でしょ?」

「誰が濡れ女よ、魔女! 中途半端能力!」

「何が中途半端なんだか……」

「法力魔法も中途半端、器用さも中途半端。物理戦闘もダメ。一番使えない職業が魔女よねぇ。リリスは魔女、可哀想……」

「は? まごまごまじょまじょ、魔女は誰? どちらかと言うと、私は詩人だと思うけどね」

「詩人? ゲームの台詞でしか詩を書けないくせに」

「電波ソング書くあなたに言われたくないわ」

「何よ! 根暗吸血鬼!」

 ソニアはそう叫んで、リリスの足に手を伸ばし、サイハイソックスを思いっきりずり下げた。この妙な行動が、根暗吸血鬼呼ばわりが平気になった今のリリスに対して、一番効果的だということをソニアは知っているのだ。

「ちょっと! 何すんのよこの変態乳牛!」

 案の定リリスは慌てて取り乱す。まぁ、リリスに限らず誰でもこんなことされたらびっくりして取り乱すだろうが……。

「こら、妙な事はやめなさい」

 ラムリーザは、ソニアとリリスの間に割って入り、これ以上荒れるのを防いだ。

 ソニアは、ざまあみろといった笑みを浮かべた顔をして、雨の降る外へと視線を戻した。

 リリスは不機嫌な顔をして靴下を直していたが、ふと何かを思いついたかのように、ラムリーザの手を引いてソニアから引き離した。ソニアはリリスの行動に気付かず、まだ外を眺めている。そこでリリスは、ラムリーザのに顔を近寄せて小声で言った。

「ここは他に誰も来ないよね?」

「い、いや、ソニアが居る、ユコが居る。君が居る、そして僕が居る」

 ラムリーザは急に顔を近寄せられて、慌てて言った。

「静かに。屁理屈はいいからそこに座って」

 ラムリーザはリリスに押されて、階段に座らされた。リリスはラムリーザの座った前、階段を一段降りたところに膝を突いて、そのままラムリーザを押し倒してきた。ラムリーザは、階段を上りきったところに寝転がる形となった。

 そしてリリスは、ラムリーザに身体を預けて後ろ向きに乗りかかってくる。

 このポジションは……。これは六月末、ラムズハーレム誕生の瞬間のポジションじゃないか……。

「こらぁ! ちっぱいはラムと密着するなぁ!」

 ようやくそこで気がついたソニアが、リリスの大胆不敵な行動に腹を立てて、大声を上げて突進してきた。

 リリスはソニアの体当たりを踏ん張ってこらえる。リリスをどかせられないと判断したソニアは、ラムリーザの右脇にしがみつく。さらにユコも、ラムリーザの左側に座って、ラムリーザの左手を握ってきた。

 やはりこの体勢か……。

 こうなるとラムリーザは動けない。諦めて、ハーレムを受け入れることにした。

 開かれた入り口からは、雨の降る音が聞こえている。少し強くなったか?

「雨ねぇ……」

「雨ですわねぇ……」

「ねぇラム、今日傘を持って来てないよ」

 朝は晴れていたためである。

「ん~、仕方ない。使用人に車をよこしてもらおう」

「そうだわ」

 その時、リリスが急に身体を反転させ、ラムリーザの上にうつ伏せの体勢でのっかかる形になった。

 ラムリーザとリリスは顔を向かい合わせる形となり、しかも距離が近い。さらに、ラムリーザの胸の上には、普通に大きなリリスの胸が乗っている。ソニアが規格外なので普段は目立たないが、リリスも十分に大きいのだ。

「ラムリーザあなた、ハーレムに興味あるかしら?」

「荒れることは言うんじゃない」

 ラムリーザは、右隣から感じる険しい視線を気にしながら答えた。

「それじゃあ質問を変えるわ。人間と乳牛、どっちがタイプかしら?」

 何だこの二択は? ユコは小さく笑っているし、ソニアも普通に……怒ってる。

「誰が乳牛よ! それならあんたも人間じゃなくて吸血鬼じゃないのよ!」

「あら? 乳牛だという自覚はあったのね?」

 リリスはそういって、ソニアに蹴りを入れてラムリーザから引き剥がす。さらに左手で押しのけて、ソニアを少し離れた位置まで押しやった。それからラムリーザの胸に、顔を埋めるのであった。

 ソニアは憤怒の形相で身体を起こし、ラムリーザの傍に戻りリリスを引き剥がそうと手を伸ばした。

 しかし何を思ったかその手を引っ込めて、ラムリーザの足元、階段を数段降りていった。

 邪魔者が居なくなったリリスは、顔を上げてラムリーザに微笑を向けてきた。これから少しずつ誘惑して――、その顔がいきなり引きつる。

「ちょっと何すんのよ、この変態乳牛!」

 ラムリーザは驚いた。突然顔の前でリリスが叫んだのだ。一体何が起きた?

 リリスが跳ね起きたので、自由になったラムリーザは身体を起こし、その原因を見てまたため息を吐いた。

 またか……。そういえば変態乳牛発言で気がつくべきだった。

 リリスの足元を見ると、左足の靴下が足首の辺りまでずり下ろされている。ソニアにまたやられたのだ。

 リリスはラムリーザを誘惑する事は忘れ、ソニアに飛び掛っていった。壮絶な取っ組み合いだ。

 美少女台無し!

 そのままリリスはソニアに乗っかり、マウントポジションの体勢をとった。さらに左手でソニアの両手首をがっちりと掴み取り、反撃を抑えると同時に片手をフリーにした。その空いた右手をソニアの胸へ持って行き……。

「ふえぇ……」

 ラムリーザはそろそろ止めるかと思って動きかけた所、突然後ろからユコに覆い被ぶさられてびっくりして動けなくなった。

「な、何だ?」

「吸血鬼と乳牛は放っておいて、人間通し親睦を深めましょう」

 ラムリーザは、これが以前ユコが言っていたことか、と理解した。ソニアとリリスを争わせて疲弊させ、その隙に掻っ攫うとか言っていたっけ? 今日のこのやり方自体、その言葉を実行したいい例かもしれない。

 ソニアはリリスに胸を攻められて、力が抜けてしまいほとんど抵抗できない状態になっていた。リリスは左手も離すと、今度は両手でソニアの胸を攻めだした。

「や、やめっ……、ふえぇっ……」

 ラムリーザは、この破廉恥な状態を止めさせようとしたが、ユコは今度はラムリーザの正面に回って、神妙な顔つきで尋ねてきた。

「ところでラムリーザ様、キンクリって知ってますの?」

「き、きんくり? 金色の栗?」

「いいえ、ただのキンクリですわ。例えば18禁のゲーム実況とかで、あのように――」

「ふえぇっ、ラム、助けてっ、ひゃうっ……」

「――際どいシーンが出てきたときに、それをカットすることで健全な動画にすることですの」

「へ、へぇ。それで、どうなるのかな?」

 ラムリーザはソニアの元へ近づこうとするが、その度にユコはラムリーザに合わせて身体を動かして邪魔をする。

「こうなるのですわ」

 リリスは、胸を攻めるのは程々にして、今度はソニアのスカートを捲って、手を――キンクリ。

 

 

…………。

 

 

 リリスは満足したような顔でソニアを開放し、ずらされた靴下を元に戻している。

 一方ソニアは、両手を口に当ててうずくまったまま、ピクピクと震えている。

 それを見て、ユコは思いっきり他人事の様な感じで述べた。

「あらら、ソニアはリリスに逝かされてしまいましたわね」

「いや待って? これ百合? 僕は目の前でソニアをリリスに寝取られたの?!」

「ラムリーザ様には私が居ますわ。ソニアなんかはリリスにあげて、ラムリーザ様は私と……」

「いやちょっと待って、待って待って、待ってくれ!」

 その時、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。お遊びはここまでだ。

「ソニア、立てるか?」

 ラムリーザは、ソニアを起こそうと手をかけたが、肩に触れたとたん「ひゃうんっ!」と悲鳴を上げてビクンと震え上がる。なんとか肩を抱えて立ち上がらせたが、階段を降りる足はガクガクと震えている。それに加えて、大きな胸に隠れて足元が見えずおぼつかない足取りで階段を降りていて、今にも踏み外しそうだ。ラムリーザの服を掴む手も震えている。

 そんなソニアを見て、リリスはクスッと笑い、先に行ってしまった。

 ソニアは、ラムリーザに支えられて教室まで戻ったが、席に座るとまたビクンと身体を震わせるのだ。

 ラムリーザはリゲルに屋上の鍵を返して席について、ソニアの様子を確認する。

 ソニアは、まだうつむいたままもじもじと不自然な動きをしている。リリスの攻めがそんなに良かったのか……?

 ラムリーザは、なんだかリリスに負けた気がして、謎の悔しさを感じていた。これは下宿先の屋敷に帰ったら、第二ラウンド――って、何を考えているのだ!

 

 授業が始まって、こんな微妙な状況でソニアは朗読を当てられてしまった。なんて運が無いのだ……。

 ソニアは教科書を持って立ち上がったが、なかなかしゃべりださない。読めないのかしゃべれないのか、恐らく後者。

 静まり返った教室に、ようやくソニアの一言が響き渡った。

 

「ふえぇ……」

 
 
 
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