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ラムズ・カルテットの雑談

 

 放課後、ラムリーザは珍しい組み合わせで校舎裏をぶらついていた。

 一緒に居るのは、リゲル、レフトール、そしてマックスウェルだ。西に沈み行く太陽を見ながら、改めて自己紹介のような会話をしていた。

「ところでレフトール、君のフルネームはどういうんだい?」

「俺の名前はレフトール・ガリレイ、フリール・レガイトレとは、俺の名前をアナグラムにして作り上げた偽名だ」

「やはりな……」

 そうつぶやいたのはリゲルだ。偽名の件は、ラムリーザにはよくわからなかったが、リゲルには心当たりがあったようだ。

「偽名ってなんでそんな物が必要なんだ?」

「あれだろ、ラムリーザを誘い出すラブレターを書いた時に使ったやつだろ?」

「おおっ、さすが切れ者リゲルは分かってるねぇ」

 ラブレター? そういえばそんな騒ぎがあったな、とラムリーザは思い出した。

「あれか、ソニアに悪戯しようとしていたやつだな?」

「おっぱいちゃんに飽きたら俺がもらうから、ずっと待ってるぜ」

 レフトールは、さらりと寝取り発言を言ってのける。ソニアももてるんだな、と思いながら切り返した。

「ん、五百年ぐらいしたら流石に飽きると思うから、その時あげる。で、そっちの連れはいつもレフトールと一緒にいるみたいだね」

「あ、こいつ? マックスウェル。俺とは中学時代以来の腐れ縁だ」

 ラムリーザは、改めてマックスウェルを観察した。背の高さはラムリーザとさほど変わらず、短く刈り込んだ金髪と窪んだ目が特徴的だ。だが、雰囲気はのんびりしている感じで、レフトールと違って悪者感を表に出していない。

「ふーん、下の名前は?」

「なんだっけ? ハンマーブロスだっけ?」

 腐れ縁の名前をど忘れしたレフトールに、マックスウェルは、のんびりとした声で答えた。

「シルヴァーハンマー、俺の名前はマックスウェル・シルヴァーハンマー。偽名は、無い」

 マックスウェルは、レフトールに対抗して偽名について触れるが、そうそう偽名を使うものはない。それに、偽名を明かしてしまったら意味が無い。

「ところでさ、ラムさんは生徒会長に立候補せんの? したら俺は全力で応援するぜ?」

 唐突に話題を切り替えるレフトール。彼はユグドラシルをあまり知らないので、ラムリーザを推すのだ。

「いやぁ、来年からフォレストピアで忙しくなるから、生徒会とかやっている暇は無いと思うんだ。というより、僕は生徒会長ってガラじゃないよ。この学校だと、ユグドラシルさんみたいな人がやった方がいいと思うんだよね」

「そうかなぁ、よく分からない先輩や、風紀委員のケルムさんよりはずっと良いと思うけどなぁ」

 あくまでレフトールは、ラムリーザ贔屓のようだ。リゲルが以前評価していた、レフトールの権威主義というのは伊達じゃない。つい数ヶ月前まで、この地方有力な貴族の娘、ケルムに尻尾を振っていたのにこの変わり様。どうしたものだろうか。

「そのよく分からない先輩ってのがよくないね。首長の娘は知っているのに、首長の息子は知らないんだ」

「え、あ、あいつに兄貴が居たのか、それは知らんかった」

「ふん」

 ロザリーンの事が話題に上がって、リゲルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「それよりさ、それよりさ、それよりさ、あのおっぱいちゃん、なんでラムさんにあそこまでベタベタなん?」

「おっぱいちゃんじゃない、ソニアだ」

 ラムリーザは、自分は歌の中でソニアの胸を題材にするのに、他人にはネタにさせない妙なところがあった。別にラムリーザも、本気で題材にしているつもりは無かった。ただ、勝手にネタに出てきてしまうぐらい、ソニアの胸は特徴的だった。そういうことなら、レフトールも非難できない。おっぱいちゃんは、おっぱいちゃんなのだから。

「ソニアとは、生まれた時からずっと一緒だったので、この先もずっと一緒だよ」

「なんだ、幼馴染か。まぁいいや、五百年我慢しよう。それから先は、俺の物な」

 レフトールは、五百年も生きるつもりらしい。

「墓はあばくなよ」

 ラムリーザの指摘も、少しずれている。

「ラムさんとボインちゃんかぁ。あ、そういえばリゲルは踊り子ちゃんどうしたん? 最近一緒に居る所を見ないけど」

 レフトールはおっぱいちゃん改めボインちゃんと呼んだが、今度はリゲルの方へ話しかけた。付き合ってみると、レフトールは意外と馴れ馴れしい。

「踊り子ちゃんって誰?」

「やめろ」

 ラムリーザが踊り子ちゃんに興味を示した時、リゲルは冷たく言い放って話題を止めにかかった。そこでラムリーザはリゲルが過去を打ち切ろうとしていることを思い出して言った。

「ん、あ、そうか。リゲルはロザリーンと付き合っているから、レフトール、そういうことだからね」

「おーおーおー、首長の娘と鉄道王の息子のコンビか、敵わねぇな!」

 レフトールは、両手を挙げて降参ポーズをして見せた。

「調子のいい奴だ」

 おどけるレフトールを、リゲルは得意の冷たい視線を浴びせかけながら弾劾してきた。

「お前みたいな奴はラムリーザの権威が失墜したら、またケルムの元に駆け寄るんだろ? そんな奴は、信用できないな」

「ぬぅ……」

 痛いところを突かれたのか、レフトールは返事に困った。周囲に冷えた空気が流れ込んで来たような錯覚に捕らわれる中、マックスウェルは一人あくびを漏らした。

「あぁ、まぁその時は仕方ないよ。フォレスター家の権威が失墜する時は、国が動くときだからレフトールがどうのこうの言った個人的なことは言ってられなくなるから」

 ラムリーザは、場の空気を元に戻すために慌ててレフトールを庇った。

 ラムリーザの言うとおり、ラムリーザが今の地位を追われる時は、宰相の父親の権威が失墜したときだろう。だが、ただ引退しただけなら、元宰相としてそれなりの地位と年金の保証は出る。

 権威が失墜するとなれば、悪ければ政治犯扱いだ。

 そうなれば、良くて国外に亡命、悪ければ一族郎党処刑が待っている。

 まさに国が動き、個人的なことには構っていられなくなる。

「だから、そうなった時は僕の事は気にしなくていいよ。レフトールも、善行を積んで……、あ、生徒会のメンバーに入るとかどう?」

 ラムリーザは、話題を生徒会に戻して、なんとか場の空気を元に戻すことにした。

「俺が? ん~」

「最近、本気で堅気目指しているねぇ」

 マックスウェルののんびりとした声が、さらに場を和ませる。だが、自分の事をおどけられたリゲルは、攻撃をやめなかった。

「俺はお前とつるんでいるのは気に入らないけどな。女共は認めつつあるようだが」

「いや、いいじゃないか、レフトールも仲間だよ」

 ラムリーザは、自分に好意的なレフトールを、なんとか仲間に加えたかったので、リゲルにも説得を試みる。

 だがリゲルは、ただ単純にレフトールが嫌いだから拒絶していた女性陣とは違う切り口で、レフトールの存在を否定してきた。

「レフトールとつるんでいたら、あのウサリギを刺激して余計な手出しをしてくるかもしれないんだぞ? それに、元の飼い主のケルムがいい顔するわけがない」

「あー俺、癒し猫会合抜けたから。足抜けしたことによるウサリギの対応は、俺がなんとかするから。それにお前、以前言ったじゃないか、俺の存在は、ウサリギに対する牽制になるって」

「知らんな」

「ちょっと待って、癒し猫会合って何?」

 ラムリーザは、レフトールの口から初めて聞く単語を聞き逃さなかった。

「ん? 癒し猫? ケルムさんの事」

 レフトールはさらりと説明するが、ラムリーザには何のことだかわからなかった。

「何だいそれは? ケルムさんと何の関係が?」

「ケルム・ヒーリンキャッツ、ヒーリンキャッツをもじって癒し猫。まぁ、コードネームみたいなものだ、俺とウサリギの集団ぐらいしか使っていない隠語といったところかな」

「合言葉だろ?」

 さりげなく、マックスウェルが修正する。

「まぁいいや」

 ラムリーザは、ケルムのことが苦手だったので、あまり絡みたくないなと思っていた。だから、今度はラムリーザの方から話題を変えた。

「そういえば、レフトールは蹴りが得意なんだよね」

「そうだぞ、俺はラムさんをハイキック一発でノックアウトさせたんだからな」

「ふっ、反逆者め」

 レフトールが隙を見せたら、すぐにリゲルは皮肉を投げかける。

「いやいや違うから、あれはまだラムさんの仲間になる前の、えーと、ああ、あれあれ、ポッターズ・ブラフ悪の双璧と呼ばれていた男がやったんだ。ここにいる真面目なレフトールじゃないよ」

 レフトールは、先日ラムリーザに言ってもらった言葉を使って、慌てて否定する。

「いいよ、あの時の事は覚えてないし、リゲルもレフトールを許してあげてよ」

 リゲルは、別にレフトールを認めていないわけではない。レフトールに過去の傷について触れられたから、必要以上に攻撃的になっているだけだ。リゲルに「踊り子ちゃん」は禁句だ。

「だよなぁ、ラムさんはヘッド蹴られたら記憶喪失起こすし、ボディ蹴っても効かないし、負けを認めさせにくいんだよなぁ」

 レフトールは、何も無い空間に上段、中段、下段と蹴りを放ちながらぼやいた。

「負けを認めさせてどうする気だ?」

 すかさず、リゲルの突っ込みが入る。

「いやぁ、守護者たるもの、主人より強くなければ成り立たないだろ? とまぁ、俺も何も考えてないわけじゃあない」

「次は僕に勝てるのかい?」

 ラムリーザは、レフトールの主張することはいまいち分からなかったが、考えていることには興味があった。それに、レフトールのような仲間は、強ければ強いほど頼りがいがある。

「そうだねぇ、フォレスター・キラーとでも名づけようか。ラム・キックでもいいぞ」

「面白い名前だねぇ。それじゃあ僕は、レフトール・フェイス・クラッシャーとでも名づけようかな?」

 ラムリーザはそう言いながら、レフトールの顔面に右手を伸ばす。すかさずレフトールは、ラムリーザから距離を取る。

「ふっふっふ、ラムさんの腕のリーチより、俺の足のリーチの方が長い。つまり、そこに勝機がある」

「踏み込んで蹴ってきたら、打たせて捕まえるよ。踏み込まない蹴りは、そもそも効かないよ」

 ラムリーザには、ボディの打たれ強さを利用したカウンターがあった。レフトールとの再戦も、その作戦を利用して勝ったようなものだ。

「そういえばさぁ――」

 お互い身構える間に、マックスウェルの呑気な割り込んできた。

「――ラムリーザって握る力どのくらいあるんの? あ、俺もラムさんって呼ばなくちゃダメか?」

「お前はラムリーザ様って呼べ、あの金髪美女みたいにな」

 レフトールはにやりと笑って言った。金髪美女とは、ユコの事だろう。

「ラムリーザ様? 勘弁してくれよそれは~。でさ、ラムさんに初めて遭遇した時、レフに蹴られる前に掴みかかってきた奴いるじゃん? 俺達の連れの一人のピートって奴だけどさ。あいつ、ラムさんに掴まれた後、その日の間は腕が痺れて使い物にならなかったんだぞ?」

 その日、ピートと呼ばれている男は、女を庇うラムリーザに対して胸倉を掴んできた。それを引き剥がそうとしたラムリーザに、思い切り腕を掴まれたために、悲鳴を上げたのだ。仲間を救出するために、レフトールはラムリーザに蹴りを一発お見舞いした。

「いやごめん、覚えてない……」

 だが、記憶障害を起こしたラムリーザは、覚えていなかった。

「そういえばゲーセンで計れなかったな。俺は72kgあるけど、ラムさんは?」

「ええと、何かのゲームで計った時、90ぐらいだったと思うけど……」

 そのゲームは、ソニアとリリスのリードボーカルを賭けたゲームのことだった。

「94kgだった」

 リゲルは覚えていたようだ。この男、興味無い振りをしていてしっかりソニア達の会話を聞いている所がある。

「くっ……、化けもんめ……」

 レフトールはそれを聞いて呻く。レフトールは、ラムリーザに顔面を掴まれて、片手で持ち上げられた時の事はよく覚えていた。

「レフトールもこれをニギニギしていたら、少しずつ鍛えられるよ」

 そう言ってラムリーザは、握っていたゴム鞠をレフトールに軽く投げる。

「それだけじゃないだろ? ラムさんの場合は……」

「まぁ昔から身を鍛えることは徹底されてきたからね。フォレスター家なるもの、他の貴族と違い最低限自分の身は自分で守れるように、って家訓があって、結構絞られたからね」

「ぐぬぬ、俺の立場は……」

 レフトールは悩んだ。主人が強すぎて番犬としての責務を全うできないのかと。

「レフトールは、僕じゃなくてあの人を目指すべきだと思うよ」

「あの人?」

「ほら、居ただろう? 夜に君と決闘した時、君の取り巻きはなぜ君に加勢できなかったのか、忘れたのかい?」

 ラムリーザの発言に、レフトールではなくマックスウェルが「ぬぅ……」と唸った。

 あの夜、ラムリーザの言うあの人にやられたのはレフトールではなく、マックスウェルを含むその子分達だったからだ。

 

「見つけたぜ」

 

 その時、四人の背後からドスの効いた呼び声が投げかけられた――

 
 
 
 
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