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バクシングの対戦をしてみよう前編 ~体格差~

 

 突然リングの上にやってきたソニアを見て、ミット打ちの練習中だったラムリーザとゴジリはぽかあんとなっていた。

 ソニアは、ラムリーザとの対戦を求めてきたのだ。

「……っと、待て待てソニア、これは格闘ゲームじゃないんだぞ?」

「でも試合もゲームって言うよね?」

 変なところで理論詰めしてくるソニア。どうしてもラムリーザと対戦したらしい。

 確かにこれまで、格闘ゲームで何度も対戦を要求してきた。しかし、ずるい技ばかり使ってくるのでラムリーザは何度か戦った後はずっと対戦要求を突っぱねてきた。

 ソニアは今回も同じ気分で言ってきたのだろうが、ビデオゲームと実戦とでは全然違うのを理解していないのだろうか? いや、ソニアは理解したうえで言っているのだと思いたい。

「確かにスパーリングという練習がバクシングにはある。しかしねぇ……」

 ゴジリは、ソニアとラムリーザの身体を交互に見ていた。

「何よ、あたしそのスパークリンってのをラムとやる」

「スパークリンじゃなくて、スパーリングな。とりあえず聞いてみるが、領主さん――えっと、ラムリーザ君だっかな、の体重はいくらかな?」

「えっと、先月の身体測定では71kgだったかな」

「それで、そっちのお嬢ちゃんの体重はいくらかな?」

「なっ、何よっ、女の子に体重聞くなんて失礼だわ!」

「そんなこと言うのなら、スパーリングはさせないぞ?」

 ゴジリにそう言われて、ソニアはしぶしぶ答えた。

「むーっ、56kgだった!」

「そのうちおっぱいが5kgね。いや、Lカップになったから6kgかな? くすっ」

 リリスが余計な事を言い、ソニアは「黙れちっぱい!」とすごんでくるが、リリスはちっとも堪えない。

「確かにその胸は5kgはありそう――じゃなくて、それだと15kg差、階級で言うと六階級も違う。それにお嬢ちゃんはそっちの娘が言うようにおっぱいにいくらか体重持っていかれているから、実際はもう一階級は差があるかもしれん。これでは勝負にならんて」

「何よそれ! やってみないとわかんないじゃないのよ!」

 体重差もそうだが、少しばかりは格闘技をかじっているラムリーザと、ほとんど素人のソニア。やってみなくても分かるようなものだが、ソニアはやりたいやりたいと我侭を言うばかりだった。

「しょうがないな、ちょっとだけだぞ」

 ソニアがうるさいのでラムリーザは、ソニアの要求を受け入れてあげることにした。

 こうして、ラムリーザとソニアのスパーリングが行なわれることになった。

「ほんとしょうがない娘だな。安全のために、厚手のグローブを使ってもらうが、ラムリーザ君、本気を出したらあの娘死ぬかもしれんぞ?」

「わかってますよ、その辺りは手加減……、したらしたでソニアは怒るからなぁ……」

「これも安全のため、お互いヘッドギアを付けてもらうが、気をつけろよ」

 ゴジリは、ラムリーザの腕にバクシング用のグローブを装着させながらそんなことを言っていた。気をつけろよとは、ソニアに怪我させないようにという意味である。

 その一方でラムリーザは、ソニアに手加減と見破られない手加減を如何にするか、ということを考えていた。

 しばらくしてラムリーザにグローブをはめ終わったゴジリは、今度はソニアの方の準備へと向かった。

「あ、バクシングなら俺ラムさんに勝てるわ」

 レフトールは、完全にラムリーザの拳を覆っているグローブを見てそう言った。

「なんだそれは?」

「あれじゃ掴めないだろ? 掴めないラムさんなら勝機は十分にあるかもな」

 レフトールは、ラムリーザのアイアンクローを恐れていた。

「プロレスなら負けるってことだな?」

 リゲルはニヤリと笑って言った。

「それはブック次第だな」

 レフトールも負けていない。しかしプロレスにブックとか、それを言ったらおしまいだ。

「おーい、観客はそっちに全員集まってないで、こっちのお嬢ちゃんの方にも何人かついてやれよ。セコンドってやつな」

 ゴジリは、ラムリーザの周りに集まっている観衆に向かってそう言った。

「俺はソニアなんかのセコンドにはつかん」

 リゲルはそう言い放つ。

「あ、俺もラムさんにつく」

 レフトールもそれに続いた。

「そうですね、私もラムリーザさんにつきます。というより、向こうは危なっかしくてみてられないと思います」

 ロザリーンも、リゲルと一緒にラムリーザにつくようだ。

「じゃあ私がソニアにつくわ」

「ラムリーザ様の応援をしたいけど、ここはソニアについてあげますわ。

 リリスとユコは、連れ立ってリングをぐるりと回ってソニアの方へと向かった。

「あ、じゃあ俺もソニア」

 ジャンはリリスと一緒にソニアの方へと向かう。

「ここはラムリーザ君につくべきだろうけど、ソニア君も面白そうだから自分は向こうに行くか」

 ユグドラシルは、ソニアの方へと向かった。

「ミーシャはリゲル兄やんにつくのだ」

 これはラムリーザにつくと言うことだろう。

 ソフィリータは無言のまま、ラムリーザについている。

「セコンドはこれで五人と四人か。じゃあ俺はこっちのお嬢ちゃんについてあげよう」

 ゴジリは、ソニアのグローブを用意すると、そのままソニア側のリングサイドに立った。

「お嬢ちゃんじゃない! あたしソニア!」

「おうおう、ソニアちゃんね、よしよし。で、作戦だが、まぁ勝負にならないから最初から全力で行け。どっちみちお嬢――、ソニアちゃんのパンチはラムリーザ君に効かないよ」

「なによそれ!」

 ソニアは、ゴジリのアドバイスに不満タラタラだ。

「大丈夫、ここがラノベ的世界だったらソニア、あなたが勝つわ」

 不服顔のソニアに、今度はリリスがアドバイスしてきた。

「ラノベ的世界って何よ」

「普通に腕力の強い男が勝つより、か弱い女がノックアウトさせた方が意外性があって面白くないかしら?」

「それじゃああたしがラムをノックアウトさせるのね?」

「精々がんばって、ギャップ萌えを見せて頂戴ですの」

 なんだかおかしな理論だが、リリスとユコの応援(?)でソニアは気を良くしていた。

 一方ラムリーザ陣営では、それほど作戦会議は行なわれていない。こっちも逆の意味で勝負にならないと判断しているようだ。

「脳内お花畑のソニアに、まあ精々現実を見せつけてやれ」

 これがリゲルからのアドバイスだった。

「待てよ、レフェリーがおらん。やっぱり俺はレフェリーになるから、君たちでアドバイスしてやれ」

 ゴジリがレフェリーを受け持って、いよいよラムリーザとソニアのスパーリングが始まった。

 

 リングの中央にラムリーザとソニアは歩み寄る。

 ソニアと間近で対面して、ラムリーザはやっぱり気が引けてきた。いつもの可愛い彼女ではなく、格闘技の対戦相手として見ると、やはりソニアはあまりにも小柄で細かった。

「待て、ちょっと待て。やっぱり女の子は殴れないよ」

「これは喧嘩じゃなくてスポーツなのよ」

 ラムリーザはスパーリングを中止しようと提案するが、ソニアはスポーツだと言い張る。いや、格闘技はゴジリの言うように体格差が思いっきりでるのだけどね。とくにこんな拳だけで戦うバクシングなどだとなおさら。

「だったら僕じゃなくリリスと……」

「ラムとやりたいの!」

 ラムリーザはリリスとの対戦を勧めたが、やはりソニアの意思は変わらないようだ。

「でもさあ、この体格差で勝負になるわけないよ」

「嘘! シュンレイは、ザンギュラと互角以上に戦っている! しかもシュンレイの方が強い! ザンギュラは雑魚!」

「それゲームだから……」

 ラムリーザは、やれやれと首を振った。どうやら結局のところ、テレビゲームと実戦の違いを理解していなかったようだ。ソニアは、バクシングでもラムリーザをハメ殺せるとでも思っているだろうか?

 ラムリーザは自分の認識の甘さを嘆いていた。

 

 カァーン――

 

 ゴジリの合図で、ジム内に景気の良い鐘の音が鳴り響いた。ゴングが鳴って、いよいよ実戦形式の練習、スパーリングの始まりだ。

 下手に手を出すとソニアに大怪我をさせかねないラムリーザが攻撃を躊躇している一方で、ソニアは最初から大暴れだ。

 腕を振り回してただがむしゃらに突撃してくるソニア。

 レフトールとの野試合で見せたような、頭部をガッチリと守った構えで防戦一方のラムリーザ。

 ソニアの打数は圧倒的に多いが、全てラムリーザの腕でガードされていて全然クリーンヒットはしていない。さらに体重差は顕著に出ていて、ソニアが殴れど殴れどラムリーザの身体はびくともせず、殴った後に少しばかり跳ね返される始末である。

「ソニアーッ、敵はボディががら空きよっ。そこ狙えーっ」

 リリスは妙に熱中していて、ソニアにアドバイスを力強く送ってくる。

 アドバイスどおりにソニアはラムリーザのボディにパンチを繰り出してきた。

 

 ぱふっ、ぱふっ

 

 ソニアのパフパフパンチが、ラムリーザのガードしていないがら空きのボディにクリーンヒット。しかし、ラムリーザは顔色一つ変えない。

「無駄だって。俺の蹴りが通用しないボディに、あのおっぱいちゃんのパンチが効くわけないって」

 レフトールは、ふっと鼻を鳴らしてニヤついている。

 一方ソニア陣営では、ジャンとユグドラシルが何やらヒソヒソやっている。

「見えていますね」

「うん、今日はオレンジ色みたいだね」

 ソニアは今日はバクシングというスポーツをやる、と言ってきたにもかかわらず、いつもの際どい丈のプリーツミニ。つまり、そういうことである。

「ラム!」

 突然ソニアは攻撃の手を止めて、一歩下がると糾弾してきた。

「なんね?」

「手加減してる! さっきから全然打って来ない!」

「いやぁ、まぁ、ねぇ……」

 実際のところ、ラムリーザは手加減している。というより、ソニアが気の済むまで殴らせることで凌ごうとしていた。しかし、それをソニアに見破られたようだ。

 ラムリーザは、困ったようにゴジリの方を見た。

「厚手のグローブとヘッドギアだ、多少は大丈夫だと思うが……」

 ゴジリも自信が無さそうだ。無論ゴジリ自信も、今のようにソニアが打ちまくってラムリーザは防御し続ける。これが一番安全なやり方だとわかっていた。

「ほんじゃま、一発」

 ラムリーザは軽く、本当にかるくふわっと腕を伸ばし、ソニアの顔面を拳で打った。

 それだけでソニアは、一歩後退してしまった。15kg差は伊達じゃないし、そもそも腕、上半身の筋肉量が違いすぎる。

「効かない効かない!」

 それでもソニアの闘志は衰えることなく、再びラムリーザへ突進して乱打してきた。再び防戦一方になるラムリーザ。

 防御しながらラムリーザは、これなら怪我をしないだろうという殴り方があることに気がついた。ソニアの攻撃がボディ向かった所で隙をついて、カウンターを合わせてみる。

 ラムリーザの攻撃、それはソニアの頭頂部に拳を振り下ろすことだった。所謂ゲンコツというものである。ヘッドギア越しの打撃となるので、怪我をさせることは無いだろう。

 

 パフパフゴン、パフパフゴン――

 

 ソニアが乱打し、時々ラムリーザはゲンコツを振り下ろす。なんだか妙なスパーリングが繰り広げられていた。

 この展開には、ゴジリも苦笑いしていた。ゴジリの知っているバクシングの試合とは全然違う、なんともほのぼのとした試合なのだろうか。

「とんだ茶番劇だな」

 この試合に対するリゲルの感想は、この一言だった。

「まぁ、茶番劇で済んでいるからソニアさんも無事なのではないですか?」

 ロザリーンの問いにリゲルは「まあそうだが」と答える。しかし、いい気になって攻撃しまくっているソニアをギャフンと言わせたい、そんな気持ちがリゲルの中にふつふつと浮かび上がってきていた。

「そろそろクールタイムだろうな、そうすればラムリーザに面白い策を聞かせよう。あいつが聞いたら怒るだろうから、あえてクールタイムにラムリーザに耳打ちする」

「おおっ? 策士が動き出したかぁ?」

 レフトールはおどけて見せるが、リゲルはふっと鼻で笑っただけだった。

 そろそろスパーリングが始まって三分になろうとしていた。

 ゴジリは時間を確認すると、ゴングを持っているユグトラシルに鳴らすように促した。

 

 カァーン――

 

 再び景気の良い鐘の音が鳴り響く。

「よし、ゴングだ」

 ゴジリは、ラムリーザとソニアの間に入ってスパーリングを止めようとした。しかし、ソニアの乱撃は続いていて、突然間に入ってきたゴジリの横っ面にパンチがヒット!

 ゴジリはびっくりして思わず「ぐわっ」と叫んで仰け反る。

「なっ、何よっ、いきなり割り込んできて!」

 殴ったソニアもびっくりしているようだが、ちっとも悪びれようとしない。

「ゴングだって言っただろうが!」

 ゴジリも声を荒げて反論する。

「ゴングって何よ、『ごんにゃ』ならリョーメン屋さんだけど、ゴングなんて知らない!」

「プロレスなら知っているだろが! ゴングだ! 終了だ!」

「まだあたし負けてない! 勝ってもいない!」

「いいから休憩だ! ほらコーナーに戻れ!」

「何よゴング親父!」

 すっかりヒートしてしまっているソニアは、ゴジリに対して言いたい放題だ。

「いや、意味わからんて」

 ラムリーザは、そう言い残してコーナーへと戻った。

 ソニアも、ゴジリに持ち上げられてコーナへと連れ戻される。ソニアはじたばたともがくが、ゴジリはびくともしなかった。

 こうして、ラムリーザ対ソニアのスパーリング、1ラウンドが終了した。

 
 
 
 
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