home > 物語 > > 媚び媚び娘のミーシャ

媚び媚び娘のミーシャ

 

 この日の放課後、ラムリーザ達のグループは特に意味もなく学校の部室に集まっていた。ジャンの店にあるスタジオではなくて、部室ということは適当に雑談して過ごしているだけだ。

 ピアノだけは学校の備品だったので残っていたりする。その周囲に女子達は集まり雑談していた。一方男子たちは、これも備品だったので残っているソファーに腰掛けてのんびりしていた。

「ねぇねえ、誰かミーシャの言うとおりにやってみてよー」

 ミーシャの提案にリリスとユコは顔を見合わせて目配せし、ソニアを生贄に差し出した。とくにミーシャは悪いことをするような娘ではないが、こういう時はソニアに相手をさせるのが一番だ。

「何よ、媚び媚び娘」

 ソニアの暴言に近い呼び方も、ミーシャにはちっとも効いていない。

「んーとね、んーとね、両手を前に出してー」

 ソニアはミーシャに言われたとおりに両手を差し出す。こうして相手を疑ってかからないのが、ソニアの純粋なところであり、それが先日の旅行先で釣鐘を叩き続ける行動に繋がったりする。

「その手を握り締めてー」

 ミーシャは、媚び媚び娘の二つ名全開して、いつもの媚びたような声で指示を出す。それにも素直に従うソニア。

「その握りこぶしを擦ってー」

 何の意味があるのかわからないが、ソニアは両握りこぶしをすり合わせて擦る。何かのおまじないだろうか?

「その擦ったところを匂ってみてー」

 ソニアは何も迷わずに、両手の握りこぶしを鼻先へ持っていった。周囲の人達の視線がソニアに集中する。

 その瞬間、ミーシャはうれしそうな声で「ぶりっこ~」と叫んだ。

 ソニアは頭に「?」が浮かんでいるような感じで、そのまま握りこぶしを鼻先に当てたまま周囲をキョロキョロしていた。

「ぶふっ」

 吹き出したのはリリスだ。

「ソニアがぶりっこしていたら、何か様になるねー」

「なっ、何よっ、誰がぶりっこよ、あたしぶりっこじゃない!」

「ねーねー、つま先に何かついてるよ」

 ミーシャに嵌められて憤慨するソニアを、ミーシャは不思議そうな顔で言ってきた。ソニアは怒るのも忘れて、うつむいて足元を見た。

 その瞬間ミーシャは、ソニアの肩をぽんぽんと叩きながら「落ち込むなって」と優しく、しかし相変わらずの甘ったるい媚び媚び声で慰めるように言ってきた。

「落ち込んでない!」

 また怒るソニア。そこにリリスの要らない一言が炸裂。

「さっきうつむいたけど、つま先見えたの?」

「みっ、見たわよ!」

「ほんとうかしらねぇ」

 リリスは、ニヤニヤしながらソニアを見つめている。

「何が言いたいの――」

「ねーねー、目に何かついてるよ」

 リリスに食って掛かろうとするソニアに、またしてもミーシャは媚び声で指摘してきた。

「えっ?」

 ソニアは怒るのも忘れて目に手をやる。

「擦ったら取れると思うよ」

 ミーシャにそう言われて、ソニアは両手を握って目を擦る。

 その瞬間ミーシャは、うれしそうに「泣くなってばぁ」と言ってきた。

 この流れに、傍観者だった二人以外の娘たちは吹き出したりしていた。

「なっ、何よさっきからこの媚び媚びミーシャめっ!」

 ソニアは、リリスに振り上げたこぶしを今度はミーシャに振り上げた。怒髪天のソニアを見ても、ミーシャはいつものように平然としたとぼけた顔で返してくる。

「なぁに? 泣き虫姉ちゃん」

「だっ、誰が泣き虫姉ちゃんよ!」

 こうなったら完全にソニアは手玉に取られていた。ミーシャは、皆がもっともだと納得するようなことを理由に挙げる。

「だって、のだましたら泣いて、バクシングしたら泣いて、お姉ちゃんは何か遊びに行くたびに泣いているよー」

 確かにのだまでは爆乳の死角をついて泣き出し、バクシングではラムリーザに勝ったものの、その代償に胸をだらしなくはだけさせる結果になって泣き出してしまっていた。

「泣き虫姉ちゃんであると同時に、ふえぇちゃん。見てなさい、ふえぇって言うから」

 そこにリリスが追い討ちをかけ、ソニアの胸の頂点に手を伸ばしてきた。ソニアは一歩身を引いてさらに激怒して、だが見当違いなことをミーシャに投げかけてきた。

「だったらこの呪いの人形のユコは何なのよ!」

「なんですの、私は関係ありませんの」

「台詞だけお嬢様!」

 ミーシャはキリッとした、しかしやはり甘ったるい媚びた声でユコをそう評する。

「なっ、何ですのそれは!」

「あー、なんとなくわかるわ」

 これにリリスは、心当たりがあるようでうんうんとうなずく。確かにユコの口調は、ステレオタイプなお嬢様言葉だ。いつの頃からか演ずるようになったのだが、それがいつなのかわからないいつの間にかだ。リリスと出会った当初は、普通の話し方をしていたはずだ。

「じゃあローザは何?」

「完全無欠の優等生」

「何それローザだけ良いように言って、仮面優等生でいいのローザは」

「別にロザリーンは優等生を演じているわけじゃなくて、普通に優等生だと思いますの」

「ソニアは劣等生だけどね、くすっ。あ、心配しないで、世の中には劣等生とは名ばかりの最強も居るらしいから気にしなくていいわ」

 どんな状況でもリリスはソニアを煽ることは止めない。

「じゃあこの根暗吸血鬼は何よ!」

「根暗吸血鬼ってなぁに?」

「このリリスっていう役立たず魔女よ!」

「サキュバスみたい。あ、目が赤いからウサギさん」

 ミーシャのリリス観は割りと見た目通りの普通な評価だ。

「ふん、吸血鬼じゃなくてサキュバスなんだったら、服全部脱いだらいいんだ、このエロウサギ!」

 なんだかミーシャのおかげで、新たな称号が手に入る一同であった。

「じゃあソフィリータは何?」

「ソフィーちゃんは、リアルダブルニープレス」

「いや、それは得意技やっているだけだし」

 ミーシャはソフィリータの親友なので、あまり変には言いたくないようであった。

「だったらさ、男子はどう見ているの? とりあえずジャンから評価してみて」

 リリスはミーシャに、彼女の男子像を確認してみた。

「あの人? んーとね、んーとね、エロトピア!」

 その発言に、リリスとユコは吹き出した。確かにリリスはジャンに、よくエロい目で見られていた。好意を持った相手をエロい目で見るジャンもジャンだが、さすがエロトピアと言ったところか。

 自分がそんな風に評価されていると知らないジャンは、ソファーにいつもの四人で集まって雑談していた。

「それじゃあレフトールさんは何ですの?」

 ユコの問いにミーシャは、少しおびえたような顔をして、しかし声色はやっぱりいつもの声で、「ポッターズ・ブラフ悪の双璧の片割れ」と答えた。

「ミーシャは居なかったのに知っているの?」

「ミーシャ、二年前まではずっとここに住んでいたよ。中学生のときから、レフトールって人とウサリギって人は怖いから近づいちゃダメだぞってリゲルおに~やんから言い聞かされていたもん。あ、でも最近のあの人、何かあんまり悪い人って感じがしないなぁ。何なの? 中身入れ替わったの?」

「それじゃあラムは何?」

 ミーシャの質問には答えずに、ぶすっとしたような口調でソニアが尋ねる。

「んーとね、んーとね、太鼓打ちのお兄ちゃん!」

「むむむ、そりゃあバンドでは太鼓役だけどさぁ、もっと他にあるでしょ?」

「無いもんっ」

 まぁミーシャから見たらラムリーザは、リゲルの友人の太鼓を叩いている人、もしくはソフィリータの兄の、これまた同じく太鼓を叩いている人という認識なんだろう。

「アップルクラッシャーとか?」

「ソニアが好きという物好き男とか?」

「なっ、だっ、誰が物好きよ!」

「で、リゲルは何かしら?」

 ソニアを煽るだけ煽っておいて、リリスは涼しい顔をして話を先に進めた。これではソニアも黙るしかない。

「面白くて優しくてかっこよいおにーやん」

 今度は「んーとね」を連発せずに即答であった。しかしリリス達にとっては突っ込みどころ満載な答えだ。

「かっこよいは人それぞれの好みがあるから触れないとして、面白くて優しい?」

 面白さも優しさも、人によって受け方は違うと思うが、そこにはあえて突っ込まないでおこう。

「リゲルのどこが面白いの?」

「ミーシャに面白い話をいっぱいしてくれるよ」

「どこが優しいの?」

「ミーシャにいろいろ優しくしてくれるよ」

「ちょっとリゲルこっち来て!」

 ソニアは大声を出してリゲルを呼びつける。リゲルはめんどくさそうな顔をして、ソニアのそばにやってきた。

「何だよ、風船みたいな顔をして呼びつけて何の用だ?」

「なっかっ、顔が風船なわけないでしょ!」

「ならば別の場所が風船だと認めるのか?」

「風船なんか無い! この氷柱!」

「で、何の用だ? 豊乳丸愛好家」

「そんなもの使ってない! も~、こんなんのどこが面白くて優しいのよ!」

 ソニアは、ぜえはあと肩で息をしながらミーシャとリゲルを交互ににらみつける。そこまで必死になって対抗しなくてもよかろうに。

「リゲルおに~やん」

 ミーシャの一言で、リゲルの人を見下すような表情が一瞬にして消え去り、代わりに現れたのは満面の笑みを向ける好青年だ。ミーシャに向かって、「ん~? 何だい?」などと答え、先ほどのソニアに対する態度とは全然違う。

「リゲルきんもっ!」

 見慣れた去年までのリゲルの雰囲気と全然違うので、ソニアとリリスは仲良く声をそろえてリゲルを罵倒する。想像してもらいたい、クールで通っていた青年の、うれしそうな崩れた顔を。

「こほん」

 ロザリーンの咳払いで、リゲルはいつもの真顔に戻ってそのままソニア達のそばから離れてラムリーザ達の居るソファーへと戻っていった。

 その時だ。

 部室のドアが突然開き、そこに一人の女子生徒が現れた。

 

「やっ、やばっ」

 その女子生徒の姿を見て、ソニアは慌てて自分の身だしなみをチェックする。新しく新調したブラウスは、きちんと「L」も収まりきっていてはだけていないし、靴下もずれていない。

「騒々しい部活ね。でもいったい何をやっているのかしら?」

 ケルム・ヒーリンキャッツは、刺すような視線でソニア達を見据えながら尋ねてきた。

「軽音楽部だもん、少しぐらいうるさくて丁度いいの!」

 ソニアはそうやり返すが、楽器類は全てジャンの店にあるスタジオに持ち込んでいるので、ここには学校の備品のピアノしかなくて、ぶっちゃけて言えばBGMを奏でているロザリーン以外は何も音楽活動をやっていない。

「今日は、あなた方にある提案を持ちかけにやってきました」

 突然やってきて提案を持ちかけるというのも無茶な話ではあるが、一応生徒会副会長だ。何か部活動の方針でも考えてきたのだろうか?

「提案って何ですか?」

 ソニア達が相手にすると騒動に発展しかけないので、代わってロザリーンが受け答えをする。

「今ここに居るのは九人。レフトールも加わったそうなので、男子四人に女子六人。ここは男女別にグループを作って、二グループで活動すべきです。男子バンドと女子バンド、きちんと分けなさい」

「やだ!」

 ソニアは即答した。

「あたしラムリーズに残る! これで五人五人の半分こ、リリスが女組のリーダーやったらいいんだ!」

 ソニアは、男子と自分、その他女子のグループに分けようと言い出した。しかし、他のメンバーが納得するはずがない。

「そんなの嫌ですの!」

 ユコが真っ先に反論した。

「私も嫌です。分けるのが必須ならば、J&Rとそれ以外にしてもらいたいです」

 ソフィリータもユコに同調するが、この提案はソニアには支持されたが他の女子には当然ながら反対されてしまった。

 ちなみにJ&Rは、ラムリーザが帝都に住んでいた時に存在していたグループで、彼とジャン、ソニア、ソフィリータの四人組だった。

「口々に騒いでも意味がありません。部長は誰ですか?」

 ケルムの問いかけに、ソニアとリリスは声を合わせて「私!」とこたえた。最初の言葉が「あ」と「わ」で若干違うが、二人が自分を部長だと言い張っていることには変わりない。

 ケルムはため息を吐いて、「とにかく男女は分ける方針で。陸上部も水泳部も男女別々でしょう?」と言い残して、部室から立ち去っていった。

 ソニアはケルムの出ていった扉をしばらく見つめていたが、ユコは「そういえばバレーボール部も男女別ですわね」などと言っていた。

「いや、運動部と文化部を同じに考えること自体がおかしいですよ? 天文部は男女混合ですし」

 ロザリーンは冷静に突っ込みを入れる。

「あ、そうですわね……って男子!」

 ユコはハッと我に返り、先ほどの騒動に我関せずだった男子部員に文句を言ってきた。

「どうしてあなたたちは、あの風紀委員にガツンと言ってやらないんですの?!」

 ユコに責められて、ソファーに腰掛けて卓を囲んでいたラムリーザとリゲルとジャンは、首をかしげてお互い顔を見合わせた。

「いやぁ、僕はあの人がちょっと苦手で……」

 ケルムには弱気なラムリーザ。

「あまり好みのタイプじゃなかったから」

 あくまでエロトピアなジャン。

「部活の面倒事は、部長が何とかしろ」

 正論ではあるが、責任逃れのリゲル。さらに部長が決まっていないという現実もある。

 とりあえず結論としては、男女別に活動することはありえない、という話で決着はついていた。

 

 

 部室を出たケルムは、一人考えていた。ラムリーザは私と結ばれるべきだと。

 まずは邪魔な女共をラムリーザの周りから剥ぎ取るべし。前回ラムリーザの権威を失墜させようとした作戦は失敗してしまい、その結果手駒を失う結果になったが、これからは慎重に一手一手仕掛けるのだ。

 そうすることによって、ラムリーザとその他女が疎遠化したら、そこに自分が取って代わり、ラムリーザを骨抜きにしてやろうと考える。

 それと裏切り者のレフトールへの制裁を忘れてはならない。これはウサリギを上手く使って目に物を見せてやればよいだろう。

 ケルムはそうして、最終的にはラムリーザごとフォレストピアも手に入れるつもりでいたのだった。

 

 一見平和に見えて実際平和な中、不穏な動きも進行している。
 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2020

return to page top

©発行年-2020 フォレストピア創造記