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作詞家になれそう?

 

 7月22日――

 

 この日は朝から雨だった。

 正確に言えば、昨日のマトゥール島一周旅行中、夕方あたりからポツポツと降り始め、夜に入ってから本格的な雨となり、それは翌日になっても続いていた。

 まぁこんな日もあるだろう。

 

 ラムリーザ達が宿泊している北の海辺に面した数軒のコテージ、今日はそのうち一軒の広間に集まっていた。ただし全員が纏まって行動しているわけでなく、いくつかのグループに分かれている。

 ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの女性陣は、窓際に固まって何やら「ピン」「ポン」「パン」などと一人ずつ指差しながら言い合っている。

 ミーシャとソフィリータは、ビデオカメラを持ってコテージ内をうろうろしている。泊まった場所の紹介動画でも作っているのか?

 そしてラムリーザ達男性陣は、火のついていない暖炉の周りにあるソファーに集まっていた。

 窓の外では、大粒の雨が窓ガラスに叩きつけられている。そしてザーザー言う音がするコテージの中では、男女がきれいにそれぞれ別の場所に分かれているのだった。

 

「雨が降ったら人が溶けるの」

 ビデオカメラを持ったミーシャが、リゲルの傍に来て物騒なことを言う。

「悪魔に本を返すか、壷を割るかをやってこい」

 しかしリゲルは平然としてミーシャの対応をする。

「魔王の名に誓って!」

 ミーシャはそう言い残して、別の場所を撮影するためにソフィリータを伴って広間から出て行った。

「それじゃあ俺から行くぞ」

 そう言ってジャンは語り始めた。

「リリス、君とは生まれる前、前世から結ばれる事は決まっていたんだ。時空を超えて、ようやく二人は結ばれたのだ」

「SFだな」とリゲルは評する。

「いい話だろう?」とジャンは得意気だ。

 男性陣がやっていることは、かっこいい言葉、面白い物語、驚くような話を創作するというものであった。そこでジャンから始める事になり、さっそくキザったらしい台詞を創作したというわけだ。

「それで、ジャンの前世は何?」

 ラムリーザは、なんとなく興味を持って尋ねてみた。ジャンはいったいどういった設定を作り上げるのか?

「俺は村の鍛冶屋、リリスは村の花屋」

「つまりジャンは放火魔で、リリスは人の鼻を刈り取って売りつけるといった、猟奇的なカップルというわけだ」

 リゲルはわざと間違えた解釈で、ジャンの設定を無茶苦茶にしてしまった。

「火事じゃねーよ、トンテンカンの鍛冶だ! あとノーズじゃねぇ、フラワーだ! んじゃ次リゲルな」

 ジャンはリゲルに振る、内容によっては反撃するつもりなのだろう。

「うむ、それでは。空に浮かぶ二つの月、しかし本当は、三つの月が浮かんでいるのだ。三つの月の公転周期がうまく重なり合い、この惑星ネレウテリアからは二つしか見えないのだ。常に見えない三つ目の月には、ガーディア人の秘密要塞が隠されており、数百年前からこの惑星ネレウテリアを侵略する準備を虎視眈々と進めているのだ」

「SFだね、ホラーじゃなくてよかった」

 ラムリーザは安心するが、ジャンは反撃の言葉に迷っているようだ。

「ガーディア人ってどんな奴?」

 そう問いかけるのが精々だった。突っ込み所を探すのが難しい、リゲルの物語であった。

「ガーディア人か? そうだな、ケツの穴から食事して、口から排泄するとでもしておこう」

「なんやそれ。まあいいや、次レフトールな、なんかかっこいい話でもしてくれ」

 ジャンはリゲルの解説に対する突っ込み所に困って、さっさとレフトールに流すことにしたようだ。

「おっしゃ、昔話になるけどいいか?」

 レフトールは、そう前振りをしておいてから話を続けた。

「数年前俺がケーキ喫茶店の魅惑の壷でケーキ食ってたら、店の表でうるさい暴走族がけたたましいエンジン音鳴らして嫌がらせしてきたのだ。腹のたった俺は、金属バット片手に飛び出して、族のリーダー格をヘルメットの上からではあるがフルスイングで吹っ飛ばしてやった。これ一発で奴はびびって逃げ出したさ。副将格がいきり立ってきたが、ローミドルハイのコンビネーションキックで迎撃してやった、どやっ?!」

「嘘っぽいがレフトールならやりかねんな」

 ジャンはそう突っ込むしかできなかった。

「悪いのがとりえだからな」

 リゲルはそう評してから、ふと思いついたようにレフトールの隣に居るマックスウェルに尋ねてみた。

「そんなことあったのか?」

 マックスウェルは、「記憶に無いなぁ」と答えた。つまり、レフトールならやりかねない創作話だということだ。

「よし、次はマックスウェル」

「ん~」

 マックスウェルは、少しの間視線を上に泳がせて考えたようなそぶりを見せてから、淡々とした口調で語りだした。

「空想科学の勉強をしているジョアンって娘を、映画でも見に行かないか? と誘い出してから、ハンマーで殴り殺した」

「うそまつ!」

 ジャンはあまりにもわけのわからない物語に、わけのわからない叫び声で応酬する。

「話がホラーチックになってきたね」

「俺は面白いと思うぞ」

 ラムリーザの評価に、リゲルは先ほどの話に好意的な感想を述べた。

「ハンマーで殴り殺すのが面白いのか?」

「人の皮で作ったマスクを被った奴が、迷い込んできた人をハンマーで殴り殺す映画とかあったぞ。そしてその映画の描画の芸術性が認められて、マスターフィルムは帝都の博物館に永久保存されているって話だぜ」

「むむむ……」

 ジャンはリゲルに反論するが、あっさりとリゲルにやり返されてしまった。

「次ユグドラシル先輩っ、今度こそキザでかっこいい物語を頼むっ!」

 ジャンは、ユグドラシルにバトンタッチさせて、話を奇麗な方向へ軌道修正させようと企んだ。

「こほん、それではいくぞ」

 ユグドラシルは、軽く咳払いをしてから語りだした。

「自分は――、いやこの雨は、心卑しき者を消し去るために流した龍の神の涙。これから七日七晩降り続き、それは徐々に激しくなり世界は水没する。だが心清き自分は、龍の神の啓示を受けて大きな船を作っていたから助かった。龍の神は全ての動物を一つがいずつ乗せなさいと告げたので自分はそれに従った。兎はさっさと乗り込んだが、亀はのそのそ遅いので自分で運んだよ。でもライオンとか猛獣は明らかに合成したようになっていて――」

「ちょっと待った」

 ラムリーザはユグドラシルの話の腰を折って突っ込んだ。

「明らかな合成って何?」

「アヒルとかネコは普通に写っているけど、ライオンとか虎は明らかに別の映像を合成した感じになってなかったかい?」

「映画の話じゃないか」

 今度はジャンが突っ込んできた。

「ばれたか」

 ユグドラシルは、舌を出してへへっと笑った。

 その時、コテージの玄関が開き、部屋の中に響く雨の音が少し大きくなった。入り口には、傘を差したラムリアースとラキアの姿。後ろには二人の使用人が控えている。

「あっ、悪魔教の司祭が入ってきた!」

 ミーシャはそんなことを言いながら、カメラを持って玄関へとかけていく。

「目が溶け落ちてないか確認しろよ」

 リゲルの指示に従って、ミーシャはカメラをラムリアースの顔の近くへと持っていく。

 ラムリアースはサッとカメラを奪い取ると、「悪魔は自分の心の中に居るのだ」と言いながら、ミーシャの方へと近づけていった。

「魔女ミーシャ、魔術師リゲルの愛人なのだ」

 ラムリーザは魔女と言う言葉を聞いて、一瞬ソニアとリリスの居る方へと目を向ける。幸い二人は「じゃんけんぽいぽいどっち出すの、こっち出すの。あいこでぽいぽいどっち出すの、こっち出すの。あんた馬鹿ね、グリーンピース!」などと言いながら一騎打ちで何かのゲームに夢中になっていて振り返っていない。ラムリアースの方を見ているのはユコとロザリーンの二人だけだ。

 そこでラムリーザは、昨日のロザリーンとの会話を思い出して、「愛人ミーシャ」発言に何とも言えない気分になってしまうのだった。

「コテージに閉じ込められている哀れな子羊たちに差し入れを持ってきてやったぞ」

「そうなの、ミーシャリゲルおにーやんに監禁されであんなことやこんなこと――」

「してねーよ!」

 なんだかミーシャとリゲルの漫才が発生したりしているが、ラムリアースが持ってきたものはココヤシの実だった。

「雨と風でころころ落ちていてな、使用人に集めさせて持ってきてやったぞ。殻を割って中身を食ったり飲んだりするがよい。――って、男女に分かれてなんしょん?」

 ラムリアースが尋ねてきたのでラムリーザは答えた。

「向こうはなんかゲーム、こっちは物語作り」

「ほー、物語作りか。ちょっと休憩ついでに俺も聞いていてやろう」

 ラムリアースとラキアは、火のついていない暖炉脇のソファーの空いている場所に座り込んだ。

「えっと、どこまでいったっけ、次はラムリーザか?」

「僕か、そうだなぁ――」

 今度はラムリーザの物語創りが始まった。ラムリーザは、窓に打ち付ける雨を眺めながら、その雨から連想した物語を語りだした。

「えーと……、ソニアと二人雨を逃げた校舎の中で暗闇に包まれていたんだ。雨はやがて嵐となり、光を落としてさらに周囲は暗くなってしまったんだよね。怖がり震えるソニアの頬にキスをして、大丈夫だよ、と微笑んであげたのさ。ソニアは、あの日の僕の優しさをずっと忘れないって言っていたよ」

「突然恋愛っぽくなってしまったな、そんなことあったのか?」

「去年の一年で、学校で嵐に会った記憶は無いな、帝都時代じゃないのか?」

 リゲルはジャンにそう言う。それを聞いてジャンは「そんな昔? ――ってかラムリーザとソニアが付き合いだしたのって、こっちに来てからじゃないのか?」と答えた。

「いや、今窓の外を見ながら思いついたことを言ってみただけ」

 ジャンは「ほーお」と感心したように言ったが、リゲルは「ずいぶんと前向きな文章がでてきたな」などと言ってくる。去年のラムリーザは、「天国では全てが上手く行く」とか不穏なことばかり言っていたのを覚えていたのだ。

「それじゃあ次は、折角だからラムリーザのお兄さんに一発お願いしようかな」

 ジャンは、今度はラムリアースに振ってきた。

「さっきラムリーザがやったみたいな話でいいのか?」

 ラムリアースはジャンに尋ねる。ジャンは「テーマは何でも良いので、かっこいいやつ」と答えた。それを聞いて「結構曖昧だな」と言ってから、ラムリアースは物語を作り始めた。

「木漏れ日がキラキラと輝く中、二人の時間が流れている。お互いに憧れあっていた二人の笑顔がここにある。初めて出会ってからどれだけの時が流れたのかはわからないが、これまで二人で過ごした日々を忘れる事は無いだろう。二人がめぐり合えた奇跡を、心から感謝しよう。永遠に――。とまぁこんな感じでいいのかな?」

「うーむ、ラムリーザのを聞いた後だから、同じような恋愛物になっちゃったね」

「俺とラキアの関係を、詩にしてみたのだが?」

「ラムリーザもソニアとの関係を詩にしていたよ」

「じゃあ他のを参考に作ってみよう。どんなのがある?」

 ラムリアースが次の作品の参考にと聞いてきたとき、リゲルは唐突に語りだした。

「量子力学の勉強をしているテスラって娘を、美術館でも見に行かないか? と誘い出してから、ハンマーで殴り殺した」

 それは、登場人物の設定を変えただけで、話の本筋はマックスウェルが語った猟奇的な物そのままであった。しかし結局は、誘い出してハンマーで殴り殺すのは一緒だ。

「物騒な物語を要求するのだなぁ?」

 リゲルの物語を聞いて、ラムリアースは驚く。それでも、猟奇的な物語を構築する事は諦めなかった。

「それじゃあこんな感じか? ある田舎町、突如現れた黒い車が暴走を繰り返し、次々と住民を撥ね殺していく。保安官は警戒態勢を取って、道路を次々に封鎖して車を追い詰めていく。多くの犠牲の元、ついに車を取り囲むことに成功したが、車には誰も乗っていなかった――。こんな感じでええのか?」

「呪いの車かよ!」

 ジャンは不満そうだが、逆にリゲルはその話に満足そうな表情を浮かべた。

「ところでさ、これまでに語った物語、歌詞にならないかな? それぞれ自分の物語を書いて、ユコに持っていったら自作曲が生まれないかな?」

「賛成賛成、そうしよう」

 ジャンはラムリーザの提案に飛び乗り、リゲルは「俺がまとめて書いて持って行ってやる」と言った。リゲルはみんなの話を覚えているようだ。

 

 

 ジャンは、リゲルの書いたメモ用紙をユコの所に持っていった。

「こっちで作詞できたみたいだから、これに曲をつけたらオリジナル曲が作れるぞ」

「それはすごいですの」

 ユコは楽しそうな表情を浮かべて、ジャンの持ってきたメモ用紙を受け取って「どんな曲を当てようかな」と言いながら、歌詞を読み始めた。

 しかし、しばらくたってユコから帰ってきた言葉は、ジャンを困惑させた。

「何ですの、この怖い歌詞は!」

「ええっ?」

 ジャンは、慌ててメモ用紙を受け取って、歌詞を読み返した。少なくとも、自分やユグドラシルやラムリーザやラムリアースの詩は、奇麗な歌詞になるはずだった。

 読み返してジャンは絶句した。そこには、リゲルによってみんなの歌詞がまとめて書かれてあったからだ。

 

 

 ――キラキラと木漏れ日の中、ガーディア人は惑星ネレウテリアを侵略する準備を虎視眈々と進めていた。初めて侵略計画を立ててからどれだけの時が流れたのかはわからないが、この好機を与えてくれた奇跡を、心から感謝しよう。手始めに、ハンマーで殴り殺したり呪いの黒い車を走らせたり、金属バット片手に飛び出して、族のリーダー格をヘルメットの上からではあるがフルスイングで吹っ飛ばしてやったりした。逃げ出して隠れた二人は、大丈夫だよと言い合ったがうるさい暴走族がけたたましいエンジン音鳴らして嫌がらせされてしまう。降り始めた雨はやがて嵐となり、光を落として暗闇にとらわれてしまった。その雨、心卑しき者を消し去るために流した龍の神の涙は七日七晩続き、世界は水没してしまった。これらの事柄は生まれる前、前世から実行される事は決まっていたんだ。そして時空を超えて、三つの月の公転周期がうまく重なり合った時、ようやく事は成就された。そして誰も居なくなった、永遠に――

 
 
 
 
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