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飲酒翌朝死屍累々

 
 7月23日――

 

 気がついたら、ラムリーザはベッドの上に横たわっていた。部屋は薄暗いが、カーテンの隙間から光が差し込んでいる。どうやらここは、コテージで自分が使っていた部屋らしい。

 そこでラムリーザは、違和感を感じた。ぼんやりする頭をフル稼働して考えた結果、いつもなら右脇に引っ付いているはずのソニアが居ない。

 ラムリーザはベッドから身を起こして周囲を見渡した。

 薄暗い部屋の中にはベッドが二つあり、もう一つのベッドでソニアは眠っていた。多少顔が赤い。

「珍しく別々に寝たのかな?」

 ラムリーザはそうつぶやいてベッドから降りて立ち上がった。去年の春にソニアと付き合うようになってから、別々に寝たのは久しぶりではないかな? 一度別々に寝たときは、ソニアがネットゲームにはまって徹夜したときだ。それ以来かもしれない。

 相変わらずぼんやりした頭でカーテンを開ける。まぶしい光が差し込んできて、思わず目を細める。

 その時、後ろから「うう~ん」と声がした。

 ラムリーザが振り返ると、ソニアが苦しそうに寝返りを打っているのが目に入った。ソニアは調子が悪そうなので、ラムリーザはカーテンを閉めるとそのままそっと部屋を出て行った。

 コテージの外では、ジャンが一人なんだか体操のようなものをやっている。

「おはよう、かな?」

 ラムリーザは、曖昧な挨拶をジャンにかけてみた。

「おっ、起きてきたか。昨夜は凄かったからな、もう頭はしっかりしているかい?」

「昨夜?」

「なんだぁ? ぼんやりさんか? まぁ水でも飲んでシャキッとさせよう」

「それで君は何をやっているんだい?」

「ラジオ体操第三を考案しているところ」

「なんやそれ」

 しかし、ジャンに「昨夜凄い」と言われた以上、何かがあったことは確かだ。しかしラムリーザは、昨夜のことはおぼろげな記憶になっていたりする。

「どうしたんだろ、また頭打ったかな?」

「ん? ハチミツ酒覚えてないのか?」

「ハチミツ酒……」

 それを聞いて、記憶が少し戻ってきた気がする。

 たしか夕食後、兄のラムリアースがやってきて、ボトルに入った酒を持ってきたのだった。後味がハチミツのような甘い酒を飲んでいたら、気分が良くなってきてなんだか開放的な感じになってきて、ミーシャと――

「あれ、ミーシャと何かあったかな?」

「お前は負けたんだよ」

 ジャンは、体をクネクネとさせて不思議な体操を踊りながら言った。

 海辺を見渡すと、まだ誰も居ない。ただし岩場の方に人影が、あの後姿はラムリアースだろうか?

「まだ誰も起きてきていないみたいだね」

「ん、俺が一番起きだったな。しばらくしたらお前の兄さんが来て、岩場の方へと行ったよ」

「みんなを起こして回ろうか」

 そこでようやくラムリーザは、空が晴れているのに気がついた。昨日一日中降り続いた雨は、もうどこかへ行ってしまったようだ。

 

 ラムリーザはコテージへと戻り、一つずつ部屋をノックして入っていった。一番目の部屋には、リゲルともミーシャが居た。二人は別々のベッドに居て、リゲルは身を起こしていてミーシャは眠りこけている。

「あ、昨夜はミーシャの日なんだね」

「ほっとけ。ちょっと気分悪いから、もう少しゆっくりしてから出る」

「そっか、風邪でも引いた?」

「いや、これはおそらく二日酔いというやつだ。昨夜はちょっと調子に乗って飲みすぎたようだ」

「ふ~ん、大変だね」

「お前は大丈夫なのか?」

「なんか頭がぼんやりするけど、別に生活に支障は無いかな。ジャンは外で運動しているよ、兄も何か岩場でやっているみたい」

 リゲルは再びベッドに倒れこみ、「お前らは酒に強いのだな」と言ってから目を閉じた。

 ラムリーザは、ミーシャの様子を見てから、身体をゆすって起こそうとした。

「う~ん、う~ん、ミーシャ頭痛いの~」

「おいリゲル、ミーシャが苦しんでいるぞ」

「すまん、今は自分で何とかしてくれ。つーか頭痛いから出て行け」

 ラムリーザは、仕方なくリゲルの部屋を後にした。

 

 次に隣の部屋に入ってみると、二つのベッドからそれぞれ黒と金の長髪が覗いている。

「お~い、リリス~、ユコ~、起きろ~」

 ラムリーザは呼びかけたが、布団が少しだけもそもそと動いただけで、弱弱しい返事だけが返ってきた。

「頭痛い」

「痛いですの」

 う~ん、だめだこりゃ。

 ラムリーザは諦めて、ドアをそっと閉めた。

 

 今度は向かいの部屋をノックして扉を開けてみた。

 この部屋はカーテンが開いていて明るく、部屋の真ん中に座り込んだレフトールとマックスウェルは二人でカードゲームをた。

「ん? 起きてるね」

「どうしたラムさん、ラムさんも勝負するか?」

「んや、なんか頭がぼんやりするからやめとく」

「はっは、酒にやられたってわけだ。俺は酒は飲み慣れているから、あのぐらいは何とも無い、平気だぞ。なぁ、マック?」

「大人になるということは、自分の酒量をわきまえることさ」

「だとさ」

 レフトールは、にやりと笑ってラムリーザを見つめ返してきた。

「いや、僕も君達もまだ未成年だからね」

 そう言い残して、ラムリーザは二人の部屋を後にした。

 

 あとはソニアとソフィリータだが、コテージの広間に出たときにそこでユグドラシルとロザリーンと会った。

「あ、二人は無事なんだね?」

「えっ、何か問題が起きているのですか?」

 ラムリーザの誤解を与えるような物言いに、不安そうに尋ね返すロザリーン。この言い方では、事件が起きたとも捉えかねない。

「一部の例外を除いて、酒にやられて死屍累々だよ」

「ああ、二日酔いですね。皆さん昨夜は無茶苦茶でしたから」

「二人は大丈夫ですか?」

「うん、自分達はそんなに飲んでいないからね。それにしてもラムリーザ君、昨夜は大暴れだったねぇ。君のまた違った一面を見させてもらったよ」

 ユグドラシルは、からかうような口調でラムリーザに昨夜のことについて話す。

「酒が悪いのです、僕は悪くない……と思う」

 ラムリーザは何だか自信が無かった。酒のせいにしてよいものやら。

「皆さん二日酔いでしたら、せそ汁を作っておきましょう」

 ロザリーンは、コテージのキッチンへと向かいながら言った。

「せそ汁? ユライカナン伝統料理の?」

「ええ、せそ汁が二日酔い回復に良いと聞きました。えっと、あれ? せそがありませんね」

 せそ自体がユライカナン産の物であり、帝国領であるこの島まではまだ広まっていなかったようである。

 次はソフィリータの部屋、と考えながら広間から廊下に入ろうとしたところで、丁度個室から出てきたソフィリータとぶつかりそうになった。

「あ、リザ兄様おはようございます」

「ああおはよう、ソフィは大丈夫なのかな・?」

「ええ、ちょっとフラフラしますが」

 ソフィリータの症状は、ラムリーザとほぼ同じのようだ。

 ラムリーザは安心して、最後に元居た部屋、ソニアの所へと向かっていくのだった。

 

「お~いソニア、起きられるかい?」

 ラムリーザは、自分の泊まっている部屋に入り、ソニアの寝ているベッドの布団を少しめくって声をかけた。

「う~ん、頭痛いよ……、ふえぇ……」

「ダメだなこりゃ、水飲んでゆっくり寝てろ」

 ラムリーザは、布団をかけなおして部屋を出た。

 

 どうやら初めての酒は、半数以上の者を二日酔いにさせてダウンさせるといった結果になったようだ。

「いやまさに死屍累々って感じだったよ」

「飲み続けていたら、少しずつ強くなるって話だぞ。流石にお前の家系は強そうだけどな」

 ラムリーザは、ソフィリータを伴ってコテージから砂浜に出てきてジャンと合流する。岩場ではラムリアースが何かしているので、この三兄妹は酒の影響はあまりなかったと言える。

「しかしさ、酒って18歳未満禁止じゃなかったっけ?」

「アウトローは気にしないのさ」

「そこは気にしようよ、アウトローはレフトールだけだろ」

 そんな話しをしながら、ラムリーザ達三人は岩場へと向かっていった。

 ラムリアースは、岩場でしきりになにかゴソゴソとしている。岩の表面から何かを削ぎ取ったり、岩の隙間から何かをほじくり出したりしている。

「兄さん、何をしているんだい?」

 ラムリーザが問いかけると、ラムリアースは取っていた物を差し出しながら答えた。

「ヒザラガイとカメノテだな」

「なんやそれ」

 ラムリアースの差し出したものは二つで、一つは楕円形をしているナメクジを平らにしたようなものだ。ただし、ナメクジのようにぬめぬめどろどろではなく、それなりに硬さはあり、背中(?)には硬い殻のようなものが八枚鱗のように並んでいた。

 もう一方は植物みたいな見た目をしていて、茎のようなものがあり先端は硬い殻がまるで亀の手のようについている。その辺りの形状からカメノテという名前なのだろう。

「これを取ってどうするんですか?」

 ジャンは、転がっているヒザラガイを手に取って、マジマジと見つめながら尋ねた。

「茹でて食うとうまいぞ」

 どうやらラムリアースは、この不思議な生き物を使って料理をするようだ。

「げっ、こいつを食うのか? うまいのかな?」

 カメノテはともかく、ヒザラガイの見た目は虫にも見える。ジャンは顔をしかめて首を振った。

「見た目はアレだが、コリコリしてうまいものだぞ。そうだ、焚き火でも作って水を沸かしていてくれ。塩味が出るから海水でもいいかな」

「任せとけっ」

 ジャンはソフィリータを伴って砂浜に戻り、二人で木切れを集め始めた。

「それはそうと、ソニアはおらんのか」

 ラムリアースは、採集の手を休めずにラムリーザに尋ねた。

「二日酔いでダウン中。昼には起きてくると思うけどね」

「あいつに一番に食わせて反応を見てみたいところだけどなぁ」

「どうせ『ふえぇ』だよ」

「だな」

 ラムリーザは、そこでラムリアースに頼み込んでみる。

「あのさ、ソニアがふえぇと言うときは本当に困っているときだから、あまり言わせないようにしたいのだけどなぁ」

「お前が乳揉んだら言うじゃん、それもやめるのか?」

「それはそうだけど、ね」

 まあそれは仕方ない、ふえぇも含めてソニアの可愛いところなのだ。言わせるのも楽しい、それはもう仕方が無い。

「それで、こんな硬い殻が食べられるの?」

「ヒザラガイは、茹でて柔らかくなったところで殻は取るんだ。生では硬いけど茹でたら案外もろく取れるものだ。殻の周りのザラザラしたところも、茹でてから擦ったら取れる。食べるのはその内部だ」

「カメノテは?」

「殻は取り除いて茎の部分を食べる。皮みたいになっているから、それを剥ぎ取ると中の肉が出てくるぞ」

「へ~」

「よし、このぐらいでいいか」

 十分に採集したところで、兄弟は収穫物を持って岩場から砂場へと移動する。そして海岸で焚き火をしているジャンとソフィリータの所へと向かっていった。

 木切れを並べて火をつけた上になべが置いてある。鍋には海水が入っていて、いい具合に沸騰していた。

「よし、このままこいつらを入れるぞ」

 ラムリアースは、ドボドボと二種類の収穫物を鍋の中に投げ込んだ。沸騰していた泡が、小さく消えた。

「しかし、だいぶメンツ変わったよな」

 ラムリアースはコテージの方を見てつぶやいた。今ここに居る四人は、もともと帝都の住民だ。しかしコテージで寝泊りしている仲間は、ソニアを除いて新天地ポッターズ・ブラフで知り合った仲間達だった。

「ラムリーザもうまく人脈拡張できたものだな。俺に言わせれば、リリスを発掘した事は非常に賞賛に値する」

 ジャンは相変わらずリリスぞっこんだ。

「メルティアやヒュンナは元気にしているかなぁ」

 逆にラムリーザは、帝都に残っている昔の仲間を思い出していた。帝都にライブをやりに行く事もなくなったので、この春からとんとご無沙汰だ。

「大学の話ぐらい持っていくか? そうすれば二年後に再開できるかもしれないぞ」

 ジャンは、フォレストピアに作る大学に誘ってみようという。それもいいかもしれないね。

 

 日が高くなるにつれて、一人、また一人とコテージから出てくる。

 最初に出てきたのは、それほど飲んでいなかったユグドラシルとロザリーンの兄妹。続いて自称「酒量をわきまえていた」というレフトールとマックスウェルが出てきた。

「まだ出てこないな」

 ラムリアースは、あくまでソニア待ちのようだ。

 しばらくして、リリスとユコが連れ添って出てきた。この二人は、まあそこそこ飲んでいた二人だ。

「出てきたぞ」

 ジャンは嬉しそうに言うが、ラムリアースは「違う」と答えた。

 そしてリゲルがミーシャと一緒に出てきた。そして間を置かずすぐにソニアが出てきた。これで全員出てきたかな。

「よし、ソニア出てきた」

 ラムリアースはとたんに嬉しそうな表情になって、鍋の中から茹であがったヒザラガイを取り出して、海水で冷やしながら殻とザラザラを奇麗に取り除いていった。そしてソニアが鍋の近く、ラムリーザの隣に座り込んだところで突き出して言った。

「このヒザラガイを食えっ」

 茹で上がって殻などを取り除いたヒザラガイは薄茶色の体をしているが、殻を取った所がギザギザになっていて見た目は少し気持ち悪い。

「やっ、やだっ」

 当然ながらソニアは押し付けられたものを押し返して嫌がった。

「食えっ!」

 しかしラムリアースも負けじと押し付け返してきた。

「ふえぇっ!」

 ソニアはラムリーザの後ろに隠れる。このキャンプで何度目になるか、既にお馴染みの光景と化していた。そしてラムリアースは楽しそうにしているのだった。

 こうして、少し変わった昼食が始まったのである。

 
 
 
 
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