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兄の助言

 
 7月30日――

 

 この日に夕方、ラムリーザは兄のラムリアースに呼ばれてコテージを出て散歩に出かけた。

 コテージから出ようとしたときにソニアがついて来ようとしたが、兄に「今日はラムリーザと二人で話があるから」と言って、コテージに押し戻してしまった。

 そのまま、砂浜から少し西へ離れた海岸から突き出ている岩石海岸の上へと向かっていった。

 少し高くなったから見える眼下の波打ち際では、何度も岩肌に波がぶつかり、水しぶきをあげている。西の空には低い位置に太陽が輝き、海を金色に染め上げていた。

 二人は夕日と波がよく見える場所に並んで腰をかけた。

「ほんの数年前までは毎日よく一緒に遊んだものだが、今はあまり会えなくなったよな」

「僕自身が帝都を離れちゃったしね。兄さんも城勤めで城からほとんど帰ってこないし」

「これが大人になるってもんよ。でも城は良いぞ、与えられた居住区は屋敷とは比べ物にならんぐらいの住み心地だぞ」

「僕は別にいいかな、城暮らしは礼儀作法とか重要だし、そんな所にソニアを連れて行くのは不安しかないや」

「大丈夫、お前が城で暮らすような立場の人間になれば、それに相応しい女をあてがわれるから安心して生活できるぞ。そうだな、宮廷音楽家の娘とかどうだ?」

「要らないよ」

 二人の会話は、他愛無い身の上話から始まった。

 ラムリーザの持論であり望みは、お城で優雅な生活よりもソニアとささやかな幸せであった。

「俺と父上は今月一杯で休みは終わり、先に本土へ帰り城へ戻る。あーあー、学生に戻りたいな、今のお前は自由だ」

「そういえば父さんとあまり話せなかったなぁ……」

「まぁ父上は母上とほぼ二人きりだったからな、俺達ぐらい成長したらじっくりと干渉してくることはないさ。おかげで酒も飲めたし、ソニアと落ち着かない事だってできるだろ?」

「いやまぁそれはいいけど、ね」

 ラムリーザの父は普段は城勤めで帰ってこないし、母もほとんどラムリーザの生活に干渉してこない。小さい頃はそうでもなかったが、今では食事の時ぐらいしか顔を合わさない事も多いものだ。おかげでソニアとの同棲生活が維持できているといえるのだけどね。

「フォレストピアはどうだ? 聞いた話ではユライカナンの食文化とか面白そうなことやっているそうじゃないか」

「面白そうなことね――」

 ラムリーザはこれまでの事を思い返してみたが、ソニアとリリスが問題を起こすことばかりが脳裏に浮かんで仕方が無かった。トウガラシとかサビとか……。

「うん、美味しい食事をいろいろと紹介してくれたよ。フォレストピアに店舗出したから、兄さんも機会があれば来てみたらいいよ」

「おう、視察という名目で行くか。待てよ、お忍びの旅も面白いな」

「ご隠居様、困っている住民を助けてあげてね」

「なんやそれ」

 ラムリーザは転がっていた石を海へと投げ込んだ。石は突き出ていた岩に当たり、二つに割れて海へと飛び込んでいった。

 それを見たラムリアースは、同じように落ちていた石を投げる。今度はラムリーザのぶつけた岩を通り越して、その向こう側へと飛んでいった。

「俺の勝ちだな」

「勝負していたんだ」

 ラムリーザは今度は手のひらで包み込めるぐらいの大きさの石を拾い、石をつかんだ握りこぶしをラムリアースの目の前に突き出す。力を込めるとビシッと音がして、石は二つに割れてしまった。

「おっ、やるなぁ」

 ラムリアースは二つに割れて転がった石を受け取ると、片手でお手玉のように交互に投げてみるのだった。だがラムリーザは、その程度では驚かない。器用だなと思うぐらいだ。

 その時いきなりラムリアースは、割れた石の片方を空高く投げたのだ。ラムリーザの視線が空を飛ぶ石へと向かった時、今度は残った方の石を同じように空へと投げたのだ。

 その次の瞬間、空中で二つの石は衝突し、四つの破片となって海の中へと飛び込んでいった。

「おっ、やるなぁ」

 ラムリーザは、兄と同じ台詞しか返せなかった。

「さあ次はどうする?」

 なんだか知らない間に、二人だけの隠し芸大会みたいなものが始まってしまった。

 何か無いかと周囲を探すラムリーザに、ラムリアースは突然真面目な事を語りかける。

「フォレストピアに、もっと人材を集めておけよ」

「ん? リゲルやジャン、ロザリーンは優秀だよ」

「開発に有能でも防衛は?」

「防衛?」

「しっかりしろよ、外敵から守るものだ。帝都にも騎士団はある、領主ならフォレストピアにもそういったものを作らなければならない」

「リゲルに言われて憲兵は組織し始めたけど、騎士団までは手が回っていなかったなぁ。でもユライカナンとは友好的に国交しているし、外敵は居ないんじゃないかな?」

「西側はな。しかし北側は空いている、そこを通って他の国が侵略してくる可能性もあるぞ」

「う~ん、アンテロック山脈北側に防衛の砦と軍事施設を作って監視していたらいいかな」

「いろいろ考えろ。侵略のための軍備は帝国で考えるが、領地の防衛のための軍備はそれぞれの領主が考える事だ」

「中立です、と宣言するのは?」

「相手に『ほーん』と言われて攻め込まれるのがオチだ。自衛手段を持つの大前提、そこからこっちから戦わないよ、攻めてきたら叩き潰すよ。そのくらいは準備しておけ。もっとも皇帝陛下が戦うぞと言えば、お前も戦う義務が生じるけどな」

「戦えるよ」

 ラムリーザは、今度は直径3cmぐらいの石を拾ってきた。それを親指と人差し指で摘んでラムリアースの前へと突き出した。そして力を込めると、指で挟まれた石は崩れたのであった。

「おおう、柔らかい石だろ? これをやってみろ」

 ラムリアースは、先ほどと同じぐらいの石を拾ってきてラムリーザに手渡した。らむりーざは今度は親指と中指で摘み、同じように砕いてしまうのであった。

「うむ、総司令官となる領主の武力は問題無し、後は前線指揮官だ。そうだな、帝国騎士団に生まれたが、次男坊とか三男坊とか、行き場がなかなか見つかっていないのを見繕ってフォレストピアに赴任させてやる。後は要となるような指揮官、これは近いうちに帝国会議の場で話に出して決めてもらうさ。そうだ、ラキアの弟を派遣してやろうか、将来有望だと思うぞ」

 領地の騎士団まで身内で固めてしまおうとするラムリアースであった。それと同時に、ラムリーザが石を指で砕く芸を見せたので、今度はラムリアースが何かを見せる番になっていた。

「ラキアさんの弟ですか?」

「うん、兄の方は帝国騎士団長の後釜になるだろう。その弟は、フォレストピアの騎士団長を任せればいい」

「ラキアさんにも兄弟居たのですね」

「そういうこと」

 ラムリアースは、石ころを拾っては捨ててを繰り返しながら答える。会話をしながら次の芸を考えているようだ。

「今現在フォレストピアの規模は、まだ住民三百人にも満たない小さな村って所だね。まずは千人を超える町を目指さなくちゃね」

「資金なら心配するな。そこでだ、隣のポッターズ・ブラフ地方を参考にして、町の施設を機能ごとに区分するのだ。商業区、工業区、住宅区、娯楽区、農業区って具合にな。混在していると管理しづらくなるぞ」

「今の所、住宅区と商業区が広がっているかな。娯楽区というか、娯楽施設はジャンの店と中央公園などで小さいものはカラオケとかゲームセンターとかだけだな。農業区はこの冬の大寒波で被害が出たから立て直し中。工業区はほとんど無いなぁ」

「ま、三百人にも満たない村となるとそんなものだろう。全体の広さはどのぐらいだったっけな?」

「えっと、アンテロック山脈の西側から、国境のミルキーウェイ川までの一帯になっているね。線路が通っている場所を基準に考えているので、北や南への広がりは考慮していないけど」

「結構広いな。そのミルキーウェイの河口付近に港町を作るのもありだぞ。海路を使って物資のやり取りができる。帝国最南端の港町アントニオ・ベイは、フォレスター家に縁の多い町だからな」

 ラムリアースは、手のひらで包み込めるサイズの石を拾うと、海岸から反対側の林、ラムリーザ達の座っている場所から3メートルほど離れた場所に生えている木の枝めがけて投げつけた。飛んでいった石は、木の右側に突き出ている直径10cmほどの枝の根元にめり込んだ。

「ナイスヒット」

 ラムリーザは、命中したことに対して称賛を述べた。

「後は家の繋がりか――、いやそれは要らんか」

 ラムリアースは、先ほどと同じサイズの石をお手玉のように弄びながら言った。

「縁組のためにとか嫌だよ。ソフィリータがユグドラシル先輩と付き合っているぐらいで十分だと思う。僕がロザリーンを取る必要も無いと思うし……」

「他の家との縁組は必要が無いぐらい当家の影響力は強大。他から頼まれるぐらいだが、まぁソニアを大事にしろよ」

 そう言うと、ラムリアースは再び石を投げた。

「あたりまえ、僕はソニアを幸せにさせてやるのが人生の目標の一つでもあ――」

 そこでラムリーザは言葉に詰まった。ラムリアースの投げた石が、先ほど木の枝にぶつけた石と同じ場所に当たって、二つの石をめり込ませる結果になったことに驚いたからだ。

「ソニアは幸せ者だな。幸福のバランスを取るために、もうちっとばかしいじってやるか」

「それはやらなくていいから」

 ラムリアースは三つ目の石を選ぶかのように、再び落ちている石を拾っては捨ててを繰り返している。ラムリーザは、木の枝に埋まった石を見つめたままだ。表面上一つの石しか見えないが、奥にもう一つ埋まっているはずなのだ。

「縁組の依頼は何度か来るだろうなぁ。俺が予想するに、ヒーリンキャッツ家やユライカナンからの可能性はあると言っておこう」

「そういうの困るんだよなぁ」

「まぁ帝国は妾を持つことに対してとくに禁じていない。女好きの貴族などは、何人も寵姫をはべらせているのも少なくはない」

 それを聞いて、ラムリーザはニバス先輩の顔を思い浮かべたりしていた。あの先輩の周りには、いつも取り巻きの美人で一杯、ユグドラシル先輩などはからかわれていたりするのを何度も見ている。

「どうしてもソニアが一番にしたいのなら、縁組を求めてきた者に対しては寵姫扱いにしてもかまわんぞ」

 ラムリアースの提案に、リゲルが言っていたことが重なって聞こえていた。結局リゲルも、ロザリーンとミーシャを二人とも得てハーレムを作ることを、ラムリーザにも前例を作ってもらって合法的にしたいわけだ。もっとも帝国では、ハーレムを築く事は資産や当事者の理解さえあれば合法的なのだが……

「ソニア以外のお嫁さんなんて考えられないなぁ」

「それもいいさ」

 ラムリアースは、三つ目の石を木の枝めがけて投げた。この石も木の枝の根元、同じ場所に命中し、枝は大きく揺れた。そろそろ貫通するのではなかろうか?

「ああそうだ、最後に一つ話しておくことがあった」

 ラムリアースは、四つ目の石をラムリーザの目の前でお手玉しながら話を続けた。

「これは万が一の事態に備えてのものだが、領地内にこの組織を作るのだ」

 お手玉をしていないほうの手で懐から数枚の書類をまとめたものを取り出してきた。

 ラムリーザは表面を流し読みして「憲兵?」と訪ねた。憲兵なら少し前にリゲルから「クッパ国の滅亡」という本当なのか嘘なのか分からないような歴史を聞かされてから、真面目に作ってきたつもりだ。

「憲兵ではない、よく見てみろ」

 そこでラムリーザは、書類にじっくりと目に通す。そして読み終わると、ラムリアースに怪訝な視線を向けるのだった。

「こんな組織作る意味があるのかな?」

「あるのだ。意味が無いに越したことは無いが、意味が出てくる非常時に生きてくるのだ。表には出さずに、信頼できる人間を集めるんなだな。もしもフォレストピアを転覆させようとする者が現れたとき、この組織がその者を秘密裏に葬り去るのだ!」

 ラムリアースは力強く断言し、四つ目の石を投げた。既に三つの石がめり込んでいる枝の根元にぶつかった石は、それらの石をさらに奥へとめり込ませる。そしてとうとう枝の根元を貫通した石は、向こう側に弾け飛ばされたのだった。

 その直後、太い枝は根元から折れて、ドサッと重たい音を立てて地面に落下した。

「どうだ、薪が取れたぞ」

 ラムリアースは、にやりと笑ってラムリーザの方を振り返った。

「す、すごい……。あいや、いろいろと情報とかありがとう」

 ラムリーザはちょっとした動揺を覚えたが、慌てて平静を取り繕った。石を投げて太い枝を叩き折るなんて初めて見たものだ。それも四発同じ場所に命中させて。

「なぁに、フォレスター家発展のためさ。さて、そろそろ帰るか」

 太陽が西の海に半分ほど沈み、周囲も暗くなってきたのでラムリアースは立ち上がり、ラムリーザもそれに続いた。

 二人がコテージに戻った時には、すっかり夜になっていた。

 去り際にラムリアースは、「これが二人が夜を徹して語り合った最後の夜であった……」と言い残していった。

 ラムリーザは「語り合ったの夜じゃなくて夕方だったし、フラグにならず残念だね」と突っ込んでおくのだった。
 
 
 
 
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