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思い出がいっぱい

 
 7月31日――

 

 この日は朝から雨がしとしとと降り続けていた。どうもこの島は、本土に比べて雨が降ることが多いようだ。

 午前中降り続けた雨は、午後に入ってから土砂降りになった。

 ラムリーザとソニアの二人は、今日は広間に出ずに個室でのんびりとしていた。

 ゲーム機が無いのでソニアはラムリーザに引っ付いている。やることが無くなって暇になると、ソニアはいつもラムリーザに引っ付いてくる。そしてしばらくの間二人は窓の傍にもたれかかって、砂浜に叩きつける雨と、少し荒ぶっている海を眺めていた。

「ねぇ、ラムは昨日ラム兄と何を話していたの?」

 ソニアは、ラムリーザに頭を撫でられながら尋ねてくる。

「ん? フォレストピアについてだよ」

「ふ~ん」

 ソニアがそれ以上追求してくることはなかった。リリスやユコと違って、ラムリアースならソニアの警戒心は全く動かない。これが昨日、リリス辺りがラムリーザと二人きりになるからソニアはお留守番、などという話になっていたら大騒ぎになっていただろう。

「ウッドデッキは屋根があるから、外にあるデッキチェアでゆっくりしようか」

 風はそれほど吹いていないので、屋根があるところまでは雨は飛んできていない。まずラムリーザがデッキチェアに横たわり、ソニアがその上に乗り込んでくる形となる。

「ううっ、んっ」

 もぞもぞと動きながら、ソニアは一番落ち着けるポイントを探していた。

 この雨が続けば、父と兄が本土に帰る日程は延期されるかもしれない。だがそれはそれでよかった。めったに会えない二人と、少しでも長く居られるのはよかった。

 だだだんと、まるでスネアドラムを叩き続けるような音が、ウッドデッキの屋根で響いている。そして屋根からは滝のように雨水が滴り落ちていた。

 しばらくして、ラムリーザ達が宿泊しているコテージ担当の給仕が昼食を持ってくる。雨の日は釣った魚や集めた貝などが無いので、普通の食事となった。

 ソニアは挽肉をこねて焼いたものをパンに挟んだ食べ物、所謂ハンバーガーの類を食べながらぼやいた。

「あたしこのキャンプで、変なのいっぱい食べさせられた」

 ラムリアースはソニアをおもちゃのように扱っている。サメの生肉に卵、ヒザラガイにカメノテ、挙句の果てにはリン鉱石や原油まで食べさせようとしてきた。

「でも美味かっただろ?」

 最後の二つは別として、それ以外はラムリーザも食べてみたが、それなりに美味かったのだ。普段食べた事のない新しい味に感動したと言った方が正しいか。しかしソニアが気に入らないのは、毎回毒見役みたいなのを押し付けられることだ。

「う~ん……」

 だから、ラムリーザの言葉にも即答はしない。

 今でこそ陸での活動が主となっているが、海賊退治の話が本当かどうかは置いておいて、フォレスター家の祖先は海の人だった。その当時に書かれた海にすむ生き物で、食べられるものなどがまとめられた書類があるとラムリーザは兄から聞いたこともあった。つまりラムリアースは、その書類に基づいて食べさせてくるのだから問題は無い、のかな?

 食事が終わると再びデッキチェアに横になる。それはウッドデッキに三つほど並んでいるのだが、ソニアは個別のを使わずにラムリーザに引っ付いてくる。それはまあ、よい。

「いろいろあったなぁ」

 ラムリーザは大きく伸びをしてつぶやいた。去年の春帝都を離れてほぼ一年半、長いようであっという間だった気がする。

「いっぱいゲームやったなぁ」

 それにソニアが呼応する。それはラムリーザにとって、ゲームでの負け役を演じる一年半でもあった。

「なにをやってきたっけ――、ああ、ギャルゲーか」

 去年の春以前は一緒の部屋で過ごしてなかったので知らないが、同棲みたいなものを始めてからラムリーザもいろいろなゲームを見てきたものだ。帝都を離れてからのラムリーザの記憶では、ソニアが最初に始めたのはギャルゲーの類だった。

 リリスやユコの美少女さに不安を覚えたソニアは、ラムリーザの気をひくためにギャルゲーのご褒美イベントを再現してきたのだった。ラムリーザにとっては、ゲームと違って何の脈絡も無しにイベントが発生するから、謎としか思えなかったのだ。

 そしてそのことが原因で、清い交際は崩壊し、肉体関係を持つに至ってしまったが、過ぎたことは仕方が無い。

「次に始めたのが――、ああ、ネットゲームか。あれは酷かったな」

 たった一週間ほどであったが、ソニア、リリス、ユコのネットゲームに対するのめりこみは異常であった。これはまずいと考えたラムリーザの手でネットゲームはほぼ禁止となり、代わりにバンドグループのラムリーズを立ち上げたようなものだ。

「あたし一生懸命やってただけだもん」

「一生懸命すぎて他がいろいろと残念な状況になっていたのがまずいんだよ」

 それでもそのネットゲーム騒動があったからジャンと再開し、ジャンの店でライブ活動をするようになったのだから、何が悪くて何が良いのかわからない。その時は最悪な状況でも、それがきっかけで好転することも有り得るといったよい例だろう。

 ジャンの店での最初の一年は、週末に二時間ぐらい演奏するだけだった。それでも、ラムリーズとしての活動が本格化したようなもので、ジャンにはいろいろと感謝している。

「それからなんだっけ、マインビルダーズ?」

「あれはリリスまだやってるんだって。あたしも時々ログインして遊ぶけど、前衛的な都市が出来上がっていたよ、ダルコとか再現していたし」

 ダルコが何なのか分からないが、ラムリーザの記憶ではゾンビに襲われて全滅したものだった。

 そして夏が来て、最初に行ったのは自動車の運転免許を取るための合宿。ソニアがたとえ家から離れても寝るときは一緒じゃないと嫌というのが発覚したぐらいで、特に問題も無く終了。そして帰省。

「帰省した時、なんだかめんどくさいことになったよなぁ」

「あの時の約束、ラムは覚えてる?」

「覚えてるよ、『別れよう』という言葉は二人の間では禁句な」

「うんっ、あたし絶対にラムと別れないから」

 ソニアはそういうと、思いっきりラムリーザの首にしがみついてくるのだった。

「それが終わると、クリスタルレイクのキャンプかぁ」

「リゲルの別荘にしては、静かでいい場所だったね。湖も奇麗だったし、また行きたいな」

 そこの山小屋で、リゲルやリリス達と怪談をしたり将来を語り合った。そこでフォレストピアに大学を作ってみんなで進学しようという話になったっけ。

 そして夏休みが終わり、学校が始まった。

「休み明け、何があったっけ?」

 ラムリーザはソニアに尋ねてみた。ソニアは少しの間降りしきる雨を眺めて思い出していたようだが、すぐにラムリーザに鋭い視線を向けてきた。

「ラムが浮気した! チロジャルと」

「あれはニセ写真騒動だろ? 嫌がらせだと思うけど、いったい誰がやったのだろうね」

「あたしとラムを仲違いさせようとした人が居るんだ!」

「僕とソニアが別れて得をする人が居る?」

「リリスが寝取って喜ぶ!」

 それはありうるが、ラムリーザはリリスがあんな手の込んだ嫌がらせをするとは思えなかった。これまでの経験上、リリスはソニアには攻撃を仕掛けるが、ラムリーザに直接迷惑をかけるようなことはしなかった。ただし、ソニアを通じて迷惑をこうむる事は何度もあったのは否定できない。しかし全然関係ないチロジャルを巻き込んだことが、リリスではありえないと考えられた。

 それが終われば今度は続けざまにレフトールの乱。ニセの手紙を使ってソニアを誘い出して襲おうとしていたし、ラムリーザとの決闘にまで発展した。

 その時まで全く面識は無かったのに、突然絡んできたのも不思議だ。誰かが後ろで糸を引いていたのかもしれないな、ラムリーザは思い出しながらそう考えるのだった。

「でもラムが決闘で勝ったから、あの番長ラムに尻尾振ってきたね」

「彼は良い意味でも悪い意味でも権威主義。僕が上に立っている限りついてくるだろうね」

「じゃあラムが失脚したら?」

「怖いこと言う娘だな、その場合はレフトールが離れるとか突然牙をむく以前に、僕が亡命するハメになるから」

「あたしラムが亡命するってなっても付いていくから!」

「まぁそんな悲劇的な未来の事は、あまり考えないようにしよう。ソニアもバッドエンドよりハッピーエンドがいいだろ?」

「バッドエンドって、あたしがラムを橋から突き落とすの?」

「なんやそれ……」

 それが終われば今度は体育祭に文化祭。軽音楽部定番の体育館ライブではなく、部室を使ってカラオケ喫茶をやることになったが、珍しくてその年の文化祭では一番の目玉イベントになっていた。

「あの時の無茶振りで、演奏できる曲のレパートリーが無茶苦茶増えたし、長時間演奏に対する耐性も付いたんだよね」

「ジャンもわざわざ帝都から来てたし。あっ、そういえばあたしは見たよ? 後夜祭のダンスパーティで、ジャンはリリスと踊ってた」

「そうだっけ、僕はソニアしか見ていなかったから気が付かなかったな」

「演奏ステージから見えてた」

 文化祭の後夜祭イベントは、毎年大きなかがり火を囲んで音楽を流してのダンスだった。しかし去年は突然音源が壊れて音楽を流せなくなったので、急遽ラムリーザ達が生演奏してそれに乗って踊るという流れになったのだ。生徒会の役員が軽音楽部所属だったから、突発的に対応できたようなものだった。

「それが終わると、テーブルトークゲームに手を出したんだったな、蛮族のソニアちゃん」

 ラムリーザがからかうと、ソニアは「うるさいっ」と言うのだった。そして「ラムは脳筋ソーサラー」と追加した。

 当初はゲームマスターをユコとリゲルが持ち回りで担当し、ユコの王道ファンタジー、リゲルのホラーサスペンスと個性が大いに発揮されたシナリオを楽しんだものだった。

「去年のソニアの誕生日は酷かったなぁ」

「覚えてないっ」

 そう言いながら、ソニアは恥ずかしそうな顔をしている。一時間弱にも及んだ狂喜乱舞の不思議な踊りは、今でも語り草だ。それは割と嘘だが。

 そして新しい年がやってくる。

「おみくじでは全員災厄だったんだよなぁ」

「あたし寝取られるとかそんな結果だった!」

「なんだっけ? 内容はあまり覚えてないけど、見知らぬ土地へ投げ出されるとかそんなの無かったかな?」

「それユコのだ、そんな内容だったよ」

「う~ん、微妙に当たっているのが謎だね」

 確かにユコは、今年に入ってから今まで住んでいた場所から引っ越してフォレストピアに移り住んでいる。見知らぬ土地へ投げ出されると言うのは、当たっている様ななんというか、不思議な物だった。

 それから生徒会の引継ぎがあり、選挙で勝利したユグドラシルの政権が始まった。

 ソニアはリリスとの勝負でオークションでゲーム機を転売して稼ぎ、リゲルの意地悪でハメられたこともあった。続いてゲーム実況で、付き合わされたラムリーザも恥ずかしい思いをしたものだ。

「ソニアとリリスの引き起こす騒動に、僕は巻き込まれてばかりだったなぁ」

「リリスが悪い!」

 悪いと断定はできないが、大抵はリリスが言いだしっぺだ。それにソニアが乗ってきて、騒動が大きくなる。こんなパターンが多かった。

 一年が終わり、進級して二年生となる。妹のソフィリータが帝都から引っ越してきて後輩となり、去年から少しばかり縁のあった妹の友人ミーシャもやってきた。

「その時、ユコに転校するする詐欺食らってココちゃん取られた!」

「嘘になったから返してもらっただろ」

 そうだ、ソニアとユコのココちゃんに対する確執はここから始まったのだった。ココちゃんぷにぷにカレーの激辛完食でぬいぐる――クッションがプレゼントというのを見つけて以来、二人は何度も激辛カレーを食べてきた。おかげで現在、ラムリーザの部屋には大量のココちゃんが転がっている。

 この二年目から、舞台はポッターズ・ブラフからフォレストピアへと移っていた。

 ユライカナンからの食事文化を体験し、リョーメン、スシ、ギュードン、ソーメンといろいろ食べてきた。

「ソニアはユライカナンの食事、どれが一番好きだった?」

「う~ん、ギュードンかな。お肉大好き。でもリリスが赤い粉で無茶苦茶にした、許せない!」

「あーわかったわかった」

 ソニアは何かを語る度に、リリスに対する怨嗟の声が上がる。

「で、ラムは何が好き?」

 そして唐突に素に戻る。

「ん~、スシかな。冷たくて食べやすいし」

 今更このソニアの変わりように戸惑わず、普通に対応できるラムリーザであった。

 そしてユライカナンへの旅行、レコードデビューにコンサート。帝国内では目立っていないのに、先にユライカナンでデビューしてしまったラムリーズも不思議なグループだ。

「ほんと、いろいろあったよなぁ」

「今は~?」

「今は南の島マトゥールで、雨の中ソニアと二人で語り合っているさ」

「雨、止まないねぇ」

 一瞬空が光り輝き、数秒後にズドーンと深い音が響き渡った。

「こうして二人でのんびりしているのも良いものだよ」

「ふにゅ~」

 天気は悪いが、対照的に二人の仲は良いのである。雨降って地固まると言うが、二人の絆は雨が降らずとも固い物なのだ。

 いつまでも二人で平和に過ごせますように。

 ラムリーザは、どんよりとしていて荒れた空に願うのだった。
 
 
 
 
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