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ナリオブラザーズ

 
 9月5日――

 

 この日は朝から曇りがちで、時々小雨が降っていたりしていた。学校が終わった時間には雨は小休止状態と言ったところだが、どんよりどよどよ曇り空、すぐにでも降ってきそう。そこで今日は、のんびりしていないで、さっさとフォレストピアに帰ろうということになった。

 学校からポッターズ・ブラフの駅まで、小走りで素早く移動。ラムリーザ、ジャン、ソニア、リリス、ユコの五人は、丁度良い具合に東からやってきた電車に乗り込んだ。

 ジャンとリリス、ユコは空いているボックスシートにさっさと座り込んだが、ラムリーザはドアの傍に立ったまま外の景色を眺めていた。そのタイミングで、タイミングが良かったのかと言えるのか、再びポツリ、ポツリと雨が降りだした。

 ソニアは立っているラムリーザに引っ付いてくる。そして一緒に窓の外を眺めていた。

「あーあ、雨なのに洗濯物干してるねぇ」

 ラムリーザは、電車が駅から出たところで、一軒の民家がまだ洗濯物を干したままなのに気がついてつぶやいた。わずかな晴れ間に干したけどそのまま忘れてしまったのか、それとも干している間に出かけてしまって今留守なのか。

「あれは干してるんじゃないの、今洗濯中なのよ」

「……なるほどねぇ」

 ラムリーザは、ソニアの説明に一応納得してみる。そういえば、世の中には川の流れにまかせて着物を洗うといった習慣もあるらしい。川の水で洗ってもよいのなら、雨の水で洗っても良いのだろう、か?

 ポッターズ・ブラフの町並みを抜けて山道に差し掛かったとき、ラムリーザは外の景色から、自分の右側に居るソニアの方へと興味を移動させた。腕を組むというより、身体を押し付けて密着するように引っ付いてきているソニアの顔が近い。

「可愛いなぁ」

 ラムリーザがつぶやくと、ソニアは「えっ?」と言って、視線を外からラムリーザの顔へと移動させた。

「可愛いなぁソニアは、なんでそんなに可愛い顔をしているんだ?」

「ふえぇ……」

 ラムリーザに顔を褒められて、ソニアは思わずいつものフレーズをつぶやいていた。この場合困ったというより、照れ隠しというべきか。

「その可愛い顔を、ぎゅ~っ」

 ラムリーザは何を思ったか、ソニアの引っ付いている方とは反対の手で、ソニアの顔面を優しく鷲掴み。本気で掴めばいつぞやのレフトールのように、顔に穴を開けてしまう恐怖のクロー攻撃。

「ふえぇ……」

 顔面を掴まれて、ソニアは再びいつものフレーズを漏らす。これは困ったときのフレーズだろう。しかし逃げることは無い、そのままラムリーザに引っ付いたままだ。

「おっぱい揉むよ」

 ラムリーザは調子に乗って、顔面を掴んでいた手を今度は胸へと移動させる。この時間にフォレストピア行きの電車に乗る人は少ない。周囲にはジャンたちぐらいしか居ない、そして彼らもラムリーザの方には注目していなかった。

「ふえぇ――っ!」

 今度はちょっと声色が強い。困惑でも照れ隠しでもなく、単純に胸を揉まれたことによる快感の悲鳴だ。

「そうだ、ソニアのおっぱい二つあるからはんぶんこしよう」

「は、はんぶんこ? ダメ! 二つともあたしの!」

「欲張りだなぁ、二つあるのだから一つぐらいくれてもいいじゃないか」

「ラムに一つあげたらどうなるの?」

「もらった方は、常に僕の自由。揉んでもつまんでも、ソニアは文句言ってはならないんだよ」

 そしてラムリーザは、さらにソニアの巨大な胸を揉みしだいた。

「ふえぇっ!」

 ソニアは悲鳴をあげながら、ラムリーザにしがみついてきた。自分の胸をラムリーザの身体に押し付けて、揉まれないようにする。胸まで密着されると、揉むことはできない。

「それじゃ、足触るよ」

 ラムリーザは、今度は下の方に手を伸ばす。制服のミニスカートに手を這わせ、そのまますそを通り過ぎて、太股へと到達する。

「あっ、靴下触っちゃダメ!」

「なんか前もそんなことあったな……」

 ラムリーザは少しでも広い面積をむき出させようと、スカートをゆっくりとめくり――

「何をやっているのかしら?」

「おっと、なんでもなかとですばい」

 突然傍にリリスが現れて、ラムリーザは慌てて伸ばしていた手を引っ込めた。ソニアに夢中で気がつかなかったが、どうやらフォレストピアに到着していたようだ。

「それ、どこの言葉かしら?」

 慌てて放ったラムリーザの言葉に、リリスはしっかりと突っ込んでくる。

「なんかゲームの中のキャラが話していた語尾が印象に残ってて、確か南方の八州って地域の方言だったっけ? ほら、戦争して全国統一する奴。確かシャモンって奴の口調だよ」

「ふーん、まあいいわ」

 リリスはそれ以上追求してくることはなかった。

 

 フォレストピアは、まだそんなにどんよりとは曇っていない。ちょっと余裕があるということで、帰り道にあるゲームショップへと立ち寄ることになった。主にソニアとリリスの提案で。

「何か新作出てないかなぁ、あっ、ナリオブラザーズ!」

 ソニアが手に取ったゲーム、それは例の「ナリオカレー」で有名なマスコットキャラだ。どうやらナリオを主人公としたゲームが出たようだ。この分だと、いずれココちゃんが主人公のゲームも出てくることだろう。

「それはクソゲーね」

 ナリオカレー転売で大損したリリスは、相変わらずナリオに否定的だ。それでもソニアは買うことにしたようだ。ジャンの店でアルバイトという形で演奏をしているので、ゲームぐらいは平気で買えるほどの財力をもっていた。

「ラム、これ買って」

 前言撤回。ソニアはラムリーザにゲームの箱を差し出して、ねだってきた。どうやら頼れる時は、とことん頼るようだ。

 ゲームショップから出て、店の仕事のあるジャンと別れて、ラムリーザ達四人はラムリーザの屋敷へと向かっていた。空は徐々にどんよりとしてきていた。

 

 ラムリーザの屋敷、自室にて。

 いつものことだが部屋に入るなり、ソニアは靴下を脱ぎ捨てて生足となる。

 リリスとユコ、二人のお客様をソファーに座らせると、ソニアはさらに周囲にぬいぐる――クッションのココちゃんを並べて言った。

「子供達よ、よーく聞け」

「黙りなさい」

 すぐにリリスは、不快感をあらわにして顔をしかめる。ソニアの台詞は、今日買ってきたゲームの主人公の元ネタとなっているナリオカレーのCMからのものだ。

「ナリオカレーが抽選で100名様に――」

「黙れって言ってるでしょ!」

 ソニアとリリスがナリオカレーで言い合っているその横で、ユコはラムリーザを誘って買ってきたゲームのナリオブラザーズを開始していた。

 画面は通路のようなものが四段並んでいて、所々床が途切れている。そこからジャンプして上に飛び上がれるようだ。最上段の通路と、最下段の通路の左右には、それぞれ土管のようなものが突き出ている。

 その内、最上段にある土管からカメのようなキャラが飛び出してきた。カメは通路をとてとてと歩き進み、床が途切れたところに達するとポトリと下の段に落ちる。そこからまた再びとてとてと歩き出す。

 ラムリーザはカメを踏んでみようと、自分の操作する緑色っぽいおじさんのようなキャラを操って飛び上がってみた。

「あれっ? なんでやね?」

 しかし踏みつけた瞬間、ラムリーザのキャラクターは少し飛び上がってから画面下へと消えていった。それを見て、ユコはクスクスと笑う。

「どうやら上の通路を歩いているカメを、下から突き上げたらひっくり返るみたいですわ。それを横から蹴っ飛ばせば退治できるみたいですの」

 そう言いながら、ユコはカメを一体画面の下へと蹴り落としていた。

 一方ラムリーザのキャラクターは、画面の上から下りてくるように現れた。どうやらやられた後は、上から復活するようだ。そしてジャンプさせてみると、動かせるようになった。しかし着地地点にカメがとてとて歩いていたので、その上に着地してしまい、再びやられてしまった。

「ちょっと、何をやっているんですの?」

「いやっはは、難しいねぇ……。このカメ、触ったらやられる毒亀みたいだよ」

「横から蹴っ飛ばすとやられませんわよ」

「そっか、やってみよう」

 そこでラムリーザは、カメに横から体当たり。もちろんやられてしまった。

「下から突き上げて、ひっくり返してからですの!」

 初見の弱さ、それがラムリーザの魅力、ではない。以後は丁寧にプレイして、ユコと一緒にカメ退治を続けていた。どうやら下から二番目の段中央にあるブロックを叩けば、画面全体に居る敵キャラをひっくり返せるようだ。それを上手く使いながら、二人はしばらくの間黙々とカメ退治にふけていた。しかしラムリーザは、画面の横から現れた火の玉のようなものに当たってやられてしまうのだった。

「あ、ゲームオーバー」

「なんですの、もぉ!」

 あっさりと残機が無くなってしまったラムリーザに、ユコはちょっと不満そうな声をあげる。ユコにとって尊敬の対象であるラムリーザも、残念ながらゲームの世界となると凡人未満っぽいのであった。

「それじゃあ私が交代ね」

 すぐにリリスはラムリーザからコントローラーを奪い取ってしまった。ソニアのナリオ攻めはいつの間にか終わっていたらしく、ラムリーザとユコがプレイするのを見ていたようだ。そしてナリオではない方をプレイしていたラムリーザのキャラを奪ったというわけだ。

「ちょっと、何ですの?!」

 まだゲームオーバーになっていないユコも、ソニアにコントローラーを奪われてしまった。

「二人でコンビを組んでプレイして、どっちかがゲームオーバーになったら交代!」

 ソニアは突然ルールを作ってきた。このルールだと、ラムリーザが居る方が不利だ。

「まったくもぅ……」

 ユコはソニアに凄まれて、仕方なく足元に転がっていたココちゃんを拾い上げて観戦に回った。ソファー周りにはココちゃんがたくさん転がっていて、妙な雰囲気を作り上げている。ユコはソニアよりも多く持っているので、ユコの部屋はもっと妙な具合になっていることだろう。

 こうしてソニアとリリスのプレイが始まったが、開始してすぐに状況は怪しい方向へと向かい始めていた。

「ちょっと何すんのよ!」

 リリスはソニアの膝を蹴る。別にソニアが足でくすぐったりしてきたわけではない。ユコのプレイを見て勉強していたリリスは、カメを下から突き上げてひっくり返した後で蹴り落とそうとしたのだが、その瞬間にソニアが例の全体ひっくり返しのブロックを叩いてきて、復活したカメにリリスはやられてしまったのであった。どうやらひっくり返った後にもう一度下から突き上げると、復活する仕様になっているようだ。

 この事件がきっかけで、当時の人でさえ呆れるような理由でゲーム戦争が起きたのである。

 ソニアはカメ退治を全く行おうとせず、リリスの邪魔をすることに集中しだした。リリスの操るキャラを押して、カメにぶつけようとしてくる。しかしリリスは、ギリギリの所でソニアのキャラをジャンプで飛び越えて逃げてしまった。いきなり押す相手が居なくなったソニアは、そのままこちらへ向かってきていたカメに正面衝突。今度はソニアがやられてしまった。

「なっ、ちょろちょろと!」

 ソニアは歯噛みして悔しがり、画面上部から復活してきたキャラクターを横に動かして戦線復帰させた。しかし素早くリリスはその着地点に回りこんでいて、下からソニアのキャラを突き上げて最上段の通路へと跳ね飛ばした。そこには丁度カメが居て、再びソニアはやられてしまった。

 リリスはクスッと笑って、最下段の通路へと移動させようと飛び降りた。

「むぎゃおーっ!」

 ソニアは意味不明の叫び声をあげる。そしてコントローラーについている一時停止ボタンを連打しはじめてしまった。

「ちょっと、変な嫌がらせしないでくれる?」

 ぴぽぴぽぴぽぴぽ音を出しながら、画面は点滅を繰り返している。それに合わせてリリスの操るキャラクターも、点滅しながら最下段の通路へと落ちていく。そしてソニアが一時停止ボタンの連打を止めた時、リリスのキャラクターは下半身を最下段の通路にめり込ませてしまっていた。

「なによこれ」

 リリスは下半身めり込ませたまま、左右に動きまわっていた。

 ソニアは再びリリスのキャラクターを横から押してカメにぶつけようとしてきた。カメが迫ってきたが、今度はリリスがジャンプして逃げようとする直前に一時停止をかけて、操作の邪魔をする高等戦術を使ってきた。

「ずるいわね」

「ふんだ」

 鼻息荒いソニアは、かなりムキになっているようだ。

 しかし、一時停止を解除した後、やられていたのはソニアだった。

「なっ、なんで~?!」

「あ、これおもしいろわ」

 気が付けばリリスはカメと重なって移動していた。どうやら下半身がめりこんだ状態では、カメにぶつからないようだ。

「何それ、リリスずるい」

「知らないわ」

 リリスは無敵状態なのを良いことに、最下層を左右にうろうろするだけで何もしなくなった。リリスをやつけられない以上、こうなったらソニアは一人でカメ退治をしなければならない。

 しかし根暗吸血鬼は許してくれなかった。

 ソニアがカメをひっくり返して退治しようとした瞬間、リリスはジャンプしてめり込んでいた通路から飛び出してきた。ジャンプした上には、例の全体ひっくり返しのブロック。ソニアは、最初に自分が仕掛けた技で、やられてしまった。そして画面に表示される、ソニアがゲームオーバーになってしまったことを示すメッセージ。戦争は終わった。

「こんなクソゲー知らない!」

 ソニアはコントローラーを投げ出して、転がっているココちゃんを蹴っ飛ばした。

「何するのよ、ココちゃんいじめるのなら私が引き取りますわ」

「ダメ! 二度とユコにココちゃん貸さない!」

 ソニアは、未だにユコの転校詐欺を許していないようだ。

 そして、戦争の第二ラウンドがすぐに始まったのである。残念ながらラムリーザとユコは、二度とゲームに参加させてもらえなかった。ソニアの提唱した、どちらかがゲームオーバーになったら交代するといったルールは、どこへ行ってしまったものやら……

 だがさすがにユコからの不満が爆発し、最終的には四つ巴のリーグ戦となった。ちなみに試合表は、リリスではなくラムリーザが作成することとなった。ソニアが言うには、リリスが試合表を作ると謎の移動日が発生するからということなのだが、何の事やら……

 

 気が付けば、夜の21時を回っていた。

 ゲームに夢中になっていて、外が真っ暗になっていたことも、空腹も忘れていたようだ。

 リリスとユコは、晩御飯をラムリーザの家で一緒した後で泊まっていこうかという話になったが、ソニアが強固に反対してきて追い出そうとしてきた。

 外はもう夜、しかも雨が割と激しく降っている。

 結局リリスとユコは、ソニアの父親である執事の運転する車で、それぞれ住んでいる場所へ送られることになったのであった。
 
 
 
 
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