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ウォンツコイン

 
 10月28日――

 

 今日も放課後に部室に集まって、文化祭の準備だ。と言っても、今日はレルフィーナたちは教室で何かをやっていた。というわけで、部室に居るのはラムリーザ達演奏組みだけ。集まってからずっと気が向いたものについて練習を繰り返している。

 一時間ほど練習を続けた後で、一旦休憩ということでソファーへと集まった。

「やっぱジャンの店の方が部室より快適だったなぁ」

 ソニアは、大きく伸びをしてそうつぶやいた。確かに単なる部室と、一流クラブの部屋とでは作りが全然違う。

「文化祭が終わったらまた来いよ」

 一応ソニアに良く言われているので、ジャンは気を良くして煽らない。普段ならソニアのつぶやきに対して、特にリリスやジャンが突っ込みだの煽りだの入れて口論になるのが自然な流れだが、いつもそういうわけではない。

「さて、重要な会議を始めます」

 そう切り出したのはソニアだ。いったい何を話し出すというのだろうか?

 しかし、待てどもソニアの次の言葉は出てこない。ふんふんと鼻歌交じりに、隣に座っているラムリーザにベタベタ引っ付いているだけだ。

「ソニアお得意の、脳内会議が始まったわ。くすっ」

 そしてリリスに余計な突っ込みをさせる口実を与えるだけの結果となってしまう。しかしソニアは、適当に述べただけのようで、リリスの突込みにも何も反応を示さない。

「折角だから重要――ではないが、面白い話をしてやろう」

 そこに助け舟のような形で話しかけてきたのはリゲルだ。リゲルの面白い話、彼がテーブルトークゲームでゲームマスターをする時にありがちなストーリーを予想して、一部の者は一瞬身構える。

「小遣い稼ぎに興味はあるか?」

「ある」

 リゲルの問いかけに即答したのはソニアだった。続いてリリスも「あるわ」と答えた。しかしユコはまだ警戒しているようで答えず、ロザリーンはそれほどお金に執着が無いので反応無し。ユコの言葉だけの似非お嬢様と違い、首長の娘であるロザリーンは正真正銘のお嬢様。お金にがめついタイプではない。

「ウォンツコインというものがあるのだが、それを使って俺の理論を実践してみたら稼げるかもしれんぞ。やってみるか?」

「ウォンツコインって何かしら?」

 初めて出てくる単語に、リリスが問いかける。リゲルは無知な女めとでも言いたげな、いつもの冷たい視線を投げかけながら説明をつつけた。

「仮想通貨というもので、電子データだけでやり取りする通貨のことだ。今回のケースでは、ウォンツ・スマイル・カンパニーって会社が提供しているウォンツコインを使ってみるのだ」

 明らかにソニアとリリスの頭の上にハテナマークが浮かんでいる。

「その仮想通貨でお金儲けできるの?」

 ソニアは少し不安そうに尋ねてくる。リゲルの話には罠があるかもしれない、そんな考えを以前のオークション騒動の時から拭えないでいたのだ。

「このウォンツコインのキャンペーンとやらを見て、ある作戦を思いついた。そこでお前らを使って実験してやろうと思ってな」

「何それ怖いですの!」

「あたし実験台にされたくない!」

 リゲルの物騒な物言いに、ソニアやユコは揃って不満の声を挙げる。

「うまく行けば小遣い稼ぎができるぞ?」

「失敗したら?」

「何も残らない」

「む~、またあたしを酷い目に合わせようとしてる」

 ソニアはよくわかっていないようだが、リゲルの作戦は失敗したとしてもマイナスにはならないみたいだ。

「――で、やるのか? やらないのか?」

 リゲルの問いかけに、少しの間沈黙の時が流れる。ラムリーザやロザリーンはやらないし、リゲルは仕掛け人だ。ソニア、リリス、ユコの三人が首を縦に振らないと話は進まない。

「じゃあ俺も付き合ってやるから、リリスやろうぜ」

 最初に口を開いたのはジャンだった。それを聞いて、リリスは「じゃあやるわ」と答えた。

「リリスがやるならあたしもやる。成功してリリスだけ小遣いもらえるのはなんたやだ」

「それじゃあ私もやりますの」

 こうしてリゲルの作戦は実験されることとなった。

「ではまずは、そのウォンツコインの口座を作れ」

 リゲルの指示で、ソニア達は携帯型端末キュリオを操作し始める。その辺りの作業については、以前にネットオークションを始めたり、ゲーム実況の動画を投稿したりで扱いに慣れていた。それでも十分以上はかかったが、リゲルの言うとおりウォンツコインを扱っている所に口座を開設できたのだ。

「あれ、口座を開設しただけで3000コインもらえたよ」

 ソニアの言うとおり、開設した口座には既にコインが入っていた。

「それはキャッシュバックというやつだ。新規参入者を集めるために、期間限定でやってたりする。そこに俺は注目したのだ。それを利用して小遣い稼ぎができるのではないか、とな」

「そうね、3000コインを換金したら確かにちょっとした小遣い稼ぎになりますわ」

 ユコはその意図に気が付いたようだ。

「じゃあ口座を開設しまくって、そのカッスバップってのを集めまくったらいいの?」

 ソニアもそのからくりに気が付く。

「キャッシュバックな。あと口座を開設するには個人情報が必要だから、そんなにぽんぽん開設できないぞ」

「それなら偽名で開設するわ。ポンタン・コンドリア、住所はパラダイスって」

 リリスは謎の偽名と、あからさまに怪しい住所を口にする。

「それじゃあたしはパース・オニールって名前にしよう。住所はバクダン」

 ソニアもリリスに同調する。相変わらずこの二人の思考は同レベルだ。

「そんなのめんどくさいだろ? それにバレたらどうするのだ? 偽名とか何かのペナルティがくるぞ」

 帝国では臣民の管理だけはきっちりとやっていた。偽名とか不用意に使用すると、それがばれた時にはきついお仕置きが待っている。だからフォレストピアでも、ユライカナンから商売しに来る人の管理はきっちりとやっているのだ。

「じゃあ偽名じゃなくてペンネーム使う。それがダメならペンネームも偽名扱いで違法」

 ソニアはいつの間にか作家になっていた。いつの間にかというか、たった今この場で。というより以前小説を書き始めた気がするが、気のせいだったのかと言えるほど忘れ去られている。

「あなたのペンネームは何かしら?」

 リリスの問いかけに対して、ソニアは「ナリオ」とだけ答えた。それを聞いてリリスは「死ね」とだけ返す。

「馬鹿なことはするな。ペンネームには申請が必要で、結局本名使うだろ? それにいちいち開設するのもめんどうだし、一つにつき3000コインだろ? だが俺の理論がうまく動けば、コインは3000だけに留まらないはずだ」

「そのコインで取り引きでもするんですの?」

「オークションはやらないわ」

 ユコやリリスは、少しばかり懐疑的になっていた。特にリリスなどは、オークション勝負でソニアに負けて以来、その話題には触れないようにしていた。

「ナリオカレー」

 しかしそれを思い出したソニアが小さくつぶやく。それを聞きつけたリリスは、舌打ちを鳴らした。まだ根に持っているのか。先程ナリオに反応したばかりだというのに。

「作るのは新しい口座ではなく、一通のメールだけだ。それにお前らにいきなり商売と言っても無理だろうしな」

 リゲルの提示する案に、ソニア達は首をかしげて黙って聞いている。

「簡単に言えば自分の3000コインを五つに分けて、五人に600コインずつ送金する。この時にメールを送るわけだ。そのメールには五人の名前のリストが書かれてあるようにする。四人の他人、そして自分の名前を一番下に入れて五人だ。メールの内容は、リストの五人に対して同じようにキャッシュバックのコインを600コインずつ送金するというもの。その時にリストを書き替える内容も書いておく。リストの一番上の名前を消して自分の名前を一番下に追加するように伝える。それだけでいい」

 ソニア達は、わかったようなわからなかったような顔をしているが、とりあえずはリゲルの言ったとおりの手順を試してみることにしたわけだ。

 ソニアはメールを作る。自分の名前を一番下に書くリストの作成で困った。

「ねぇ、リストに誰の名前を書けばいいの?」

「とりあえずはここに居る者の名前でいい」

「ん」

 そこでリリスとユコとジャンの名前を書く。

「四人しか居ないよ」

「一番上は俺の名前を書いておけ。俺には送金しなくていい。というかお前らは送金する必要ないな」

「わかったわ」

 こうしてソニアはメールの作成が完了した。リリスやユコ、そしてジャンもメールを仕上げたようだ。最初のリストは同じ名前が並んでいるが、そこは気にしない。

「メールができたら、適当な奴に口座を開設させてメールを送るんだ」

「適当な奴って誰かしら?」

「誰でもいい」

 そこでソニアはメールを使って、適当にレルフィーナ相手にウォンツコインの口座を開設するよう促して、そして彼女にリストの書かれているメールを送りつけておいた。他の者も、それぞれ思い当たる相手に対して同じ事をしておく。

「これでいいのかしら?」

 まだリリスは懐疑的なようだが、リゲルは「それでいい」とだけ答えた。

「メールを送信した先の者が俺の理論どおりに動けば、これで勝手にコインは増えていく。ただし引き際を間違えるなよ。そうだな、口座のコイン数を見ながら、一週間ぐらいで換金してしまったらよい。まぁほっといてもそのうち破綻して終わるがな、ふっふっふっ」

「何その怪しげな笑い怖いですの!」

「コインが増えなかったらリゲル慰謝料3000払いなさいよ」

 リリスやユコの非難の声を、リゲルは「ふっ」と鼻で笑って受け流す。

「あたし慰謝料要らないから、チョコレート仕入れてきて」

「は?」

 ソニアの言葉にはリゲルも少し驚く。リゲルから見たら、オークション騒動でソニアに悪い事してしまったと反省の意味も込めてチョコレートを配っただけだ。それがここまで気に入られるとは、流石のリゲルも想定していなかった。

「あ、チョコいいですの」

「私も欲しいわ」

 リリスやユコも、ウォンツコインのことはすっかり忘れてしまったのか、チョコレートの話を始めてしまう。あの日ソニアが自慢するために持ってきたチョコレートを、たくさん奪って食べたのは彼女らだ。

「金よりもチョコレートってところがお前ららしいな」

 リゲルはそんな彼女達を飽きれたような目で見つめながら、ソファーに深く腰掛けなおして大きく伸びをした。とりあえず勧誘のメールは送った。それだけで彼の理論を実験する準備は終わったようなもの。後は思い通りに描いたような結果が出るのを待つだけだ。

「よし、それじゃあ休憩は終わりだ。練習を再開するぞ」

 ラムリーザの一言で、一同はソファーから立ち上がって簡易ステージへと向かった。どう見てもラムリーザが部長である。ソニアとリリスが未だに部長の座をめぐって対立しているが、実質ラムリーザの元で動いているようなものだった。それはもう部活ではなく、ジャンの店にあるスタジオを拠点として活動するラムリーズであった。

 はてさてリゲルの思いついた理論の実体はどういうものなのか? そしてソニア達は、リゲルの作戦通りに動いたが、小遣い稼ぎはできるのか?

 この地点では、誰も結果について予想できる者は居なかった。
 
 
 
 
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